チョコレート研究
食感のなめらかさで幸福感・副交感神経に違い。
ミルクチョコレートがもたらす感情への影響に関する研究結果
2024.10.16
「ちょこっと幸せ研究所」では、チョコレートと幸福度の関係性について研究を進めています。
今回は、東京大学大学院 農学生命科学研究科「食品機能学」講座 特任研究員 兼 放送大学 教養学部 教授 朝倉 富子先生にご協力いただきながら、「ミルクチョコレートのなめらかさがもたらす感情への影響」に関する研究を行いました。その結果、ミルクチョコレートを食べることにより幸福感が上昇し、特によりなめらかなミルクチョコレートの方が幸福感は上昇すること、さらに安静やリラックス状態で優位になるといわれている副交感神経活動に違いがあることを確認しました。
本研究結果については、第26回日本感性工学会大会にて発表しています。
論文URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjske/advpub/0/advpub_TJSKE-D-24-00009/_article/-char/ja
研究背景
チョコレートが多くの人々から好まれる菓子であることは周知の通りですが、チョコレートのおいしさを決定づける要素の中からテクスチャー(食感)に着目しました。チョコレートのなめらかさと感情面に関する影響はこれまでも様々に研究されてきていますが、チョコレート喫食時に抱く代表的な感情である“主観的幸福感”の評価は、無自覚な体の反応を含めた客観的評価がまだ多くはありません。そこで、粒度のみを変えたミルクチョコレートを喫食した際に、“主観的幸福感”等の主観評価にどのような変化を及ぼすかを調べることを目的とし、それを脳波や自律神経指標といった生理指標でも捉えられるのか実験を行いました。
研究方法
ミルクチョコレートが嫌いではないと回答した22歳から63歳までの健康な男女35名(男性22名、女性13名)を対象に、ミルクチョコレートの喫食前後および喫食中の、主観的評価・生理指標を比較しました。また、チョコレートのなめらかさの差異は粒度とし、粒度の粗いミルクチョコレートとなめらかなミルクチョコレートを同じ組成で用意し、粒度の違いによる結果の比較を行いました。
主観的評価は、VASアンケートおよび二点試験法にて評価し、前頭部脳波は、パッチ式脳波計を用いて、自律神経指標は、耳朶容積脈波計を用いて測定しました。
研究結果
■主観的評価
ミルクチョコレートを食べると幸福感*1が有意に上昇。
ミルクチョコレートの喫食前後の主観的幸福感を比較したところ、粒度の粗いものとなめらかなもの共に、喫食後に主観的幸福感が上昇しました。
*1:望ましく、心が満ち足りた状態が積み重なったり、強まった時に感じる気持ち
よりなめらかなミルクチョコレートは、主観的幸福感や元気、癒しといった感情面に大きく影響。
粒度の違いを明かさずにミルクチョコレートを食べ比べていただいたところ、よりなめらかなものの方が好みと答えた人が24人、粒度の粗いものの方が好みと答えた人が4人という結果に。さらに、どちらがより幸福感を感じるかついても聞いたところ、なめらかなものの方が25人、粒度の粗いものの方が3人という結果が得られ、なめらかなミルクチョコレートの方がより幸福感を感じていることがわかりました。また、「癒しをもらえると感じたか?」「元気をもらえると感じたか?」といった質問項目でもなめらかなミルクチョコレートの方が有意に高く、感情面にも影響することがわかりました。
先行研究で、チョコレート中の粗い粒子(ざらつき)を口の中で感じると、おいしさが損なわれるという報告*2や、砂糖の粒度が細かいチョコレートの方がチョコ感や甘味が持続する*3、粒子サイズを変えたミルクチョコレートでは甘味やキャラメル感、ミルク感等の感じ方が変わる*4という報告からも、粒度の違いがミルクチョコレートの総合的な嗜好にも影響したことで、主観的幸福感にも違いが見られたと考えられます。
*2:山野善正、大越ひろ:食品テクスチャーの測定とおいしさ評価、食品テクスチャーの測定とおいしさ評価、pp.111-123、2021.
*3:Gregory R. Z., Gagan M., Ruth H.: The role of particle size distribution of suspended solids in defining the sensory properties of milk chocolate, International Journal of Food Properties, 4(2), pp.353-370, 2001.
*4:須貝英理子,加藤雅樹,永安弘宜,髙橋大輔,杉本沙紀,黒田玲子:粒子サイズが異なるミルクチョコレートの官能評価,日本官能評価学会誌,26(1),pp.48,2022.
■自律神経指標
粒度の違いによる幸福感の差があるとき、「副交感神経」にも有意差あり。
喫食後のデータでは、副交感神経指標の一つであるHF値が、粒度の粗いミルクチョコレートと比べてなめらかなミルクチョコレートを食べた時の方が高い値を示しました。副交感神経は、安静時やリラックス状態に優位になるといわれており、自律神経指標でも、粒度の異なるミルクチョコレート喫食による主観の違いが現れることが新たにわかりました。
■脳波
粒度の違いにより、喫食後の脳波にも有意差を確認。
同じく喫食後の前頭部Mid-α波、Low-β波は、いずれもなめらかなミルクチョコレートを食べた時の方が有意に低い値でした。今後、脳波計測に加えセロトニン、オキシトシンといった幸せに関連するといわれている脳内伝達物質の測定など、多角的に研究を行い、食品喫食時の“主観的幸福感”の可視化につなげていきたいと考えています。
専門家からのコメント
東京大学大学院
農学生命科学研究科 特任研究員 兼
放送大学 教養学部 教授
朝倉 富子 先生
(あさくら とみこ)
チョコレートはその他のお菓子と比較して幸せを感じるお菓子であるという調査結果があります。(https://www.lotte.co.jp/corporate/chocotto/article01/)
今回の研究により、食感の違いによって幸福感に差があり、なめらかなチョコレートは、粗いチョコレートと比較して喫食後の幸福感が高いことがわかりました。自律神経指標をみたところ、なめらかなチョコレートを食べた時の方が、副交感神経指標の一つであるHF値が高いことが確認されました。
自律神経活動の変化からは「落ち着く」という傾向がでており、それが、「幸福感が高い」という結果に結びついているのではないかと推測されます。
また、味覚と脳波の関係については不明なところも多い中、食感の違いだけで脳波に違いがみられたのは興味深いと考えております。今回、Lowーβ波などに変化が見られましたが、もしかしたらこれらの周波数帯域の変化と幸福感との間に関係があるかもしれません。
主観的幸福感などの感情への影響の違いを生理指標でも捉えることができた今回の研究成果は、今後チョコレートを含めたお菓子と幸せについての研究をしていく上で大きな一歩になると考えています。