多くの食品は、一種類の味ではなく複数の味を同時に感じます。
味の構成が似ている食品であっても、構成比が少し変化しただけで「味の感じ方」が変わります。例えば、フルーティーは、甘味が強ければ「完熟な」果実を、酸味が強ければ「未熟な」果実を連想させ、「甘味」と「酸味」のバランスが重要な要素となります。食品の味を研究するには、食品による「味の感じ方」と食品中の味質の構成比との関係を明らかにする必要があります。
私たちはチョコレートの味を評価する時に「カカオ感がある」「ミルク感がある」などというように、複合的な要素を含む言葉で表現します。「カカオ感」の味の構成を明らかにしたいときは、「カカオ感」の強度が異なると感じたチョコレートを集めて、「カカオ感」に大切だと考えられる「苦味」「酸味」「甘味」のバランスを味覚センサー等で分析します。
また、一言に「酸味」といっても、その酸味の種類によっても味の印象が変わるので、高速液体クロマトグラフィーを用いてその種類(酢酸やリンゴ酸など)を明らかにしていきます。それらの基礎データから、製造条件や原料の配合に改良を重ねて私たちの理想とする味を作り上げていきます。
※ 掲載内容は取材当時のものです。
「味」「香り」「食感」の観点から科学的に分析することで
「おいしさ」を明らかにしていきます。
「味の感じ方」を
分解する
風味=味+香り
ヒトは、喫食中に鼻から抜ける香り(レトロネーザルアロマ)を認知し、食品の“香り”として感じています。そして、舌で“味” を感じています。この2つの要素が協奏することにより、風味が紡ぎ出されます。
チョコレートを例に取ると、味(甘味と程よい苦味)と、香り(カカオやミルクの芳醇な香り)が”おいしいチョコレートの風味”を織りなしているのです。このような香りは、幾つもの香気成分が混ざり合って構成されており、単一の化学物質ではありません。さらに、食品の物性などが影響するため、香りの感じ方を定義することは容易ではありません。
実は、同じ組成のチョコレートでも形状が異なるだけで、香りの広がりは変わります。下図はチョコレートを食べているときのレトロネーザルアロマを分析したものです。これは、単純にチョコレートの香りを分析するだけではわからなかった発見です。
また、ヒトが感じとれる最低濃度(閾値)は香気成分により異なっており、ある香気成分が多く含まれているからといって、その成分が食品の“香り”に重要な成分であるとは限りません。ほんのわずかに含まれている香気成分が、その“香り”に大きく影響を与えていることもあります。この様に、香りの研究と言っても様々な要素が絡み合っており一筋縄ではいきません。ヒトの知覚している香りを科学的データで再構築していくことは、大変難しい作業ではありますが、やりがいのある研究です。
見えない
食感の変化を
追いかける
ヒトは食品を食べる際、噛む、すりつぶす、舐めるといった様々な動作を行い、その間食品は絶えず変化しています。したがって、評価したい食感が、どういう状態の食品をどのような食べ方をしている時に感じたのかを考え、測定条件を構築していくことが重要になります。例えば、チューインガムは他の食品と異なりずっと噛み続けられるという特徴を持ちますが、長く噛み続けると食感が刻々と変化していることが、テクスチャーアナライザーを用いることにより客観的に示すことができます(下図参照)。長くおいしく噛むことができるチューインガムを作るために、チューインガムの食感に影響を与える原料や作り方を考えながら日々研究しています。
また、食品の構造と食感とは密接な関係にあり、構造の僅かな違いをヒトは繊細に感じ取ることが出来ます。例えば、下図はチョコレートの構造を電子顕微鏡で観察したものです。チョコレートAとBの「なめらかさ」の強度について官能評価を行うと、チョコレートAの方が「なめらかである」、と判定されます。電子顕微鏡で観察すると、チョコレートAを構成する砂糖の大きさがBと比較して小さいことが分かります。その差はなんと0.1mm以下。そのわずかな大きさの違いが、口のなかでのチョコレートのなめらかさの感じ方に影響を与えるのです。現在、私たちはあらゆる測定手法を駆使し、物性測定と構造の観察の両面からお菓子やアイスの食感の理解に取り組んでいます。
おいしい、だけではない、楽しさも
もっと大きく膨らむフーセンガム
評価技術の確立
中央研究所では、より大きく膨らむような品質研究を行っていますが、その品質の確認はヒトが実際に膨らませて行う官能評価が慣用されていました。ただ、ガムを大きく膨らませることのできるガム名人でも、常に同じように膨らませることは難しく、フーセンガムを膨らませることができ、かつ客観的に評価することができる機器の開発が望まれていました。
フーセンガムは、図1のように、3つのステップで膨らみます。測定機器の開発にあたっては、口中の動きを模した動作を採用しました。具体的には、『噛んだ後のガムにガスを送り込みやすいように凹みを作ること(ステップ①②)』、『(最初はゆっくりと)徐々に流量を上げるような機器構成(ステップ③)』となります。
「めっちゃふくらむフーセンガム」の
配合のひみつ
その発見を足掛かりに、「めっちゃふくらむフーセンガム」の開発をスタートしました。当時の私はフーセンガムを膨らませるのが得意ではありませんでしたが、フーセンガム膨らませ装置も駆使しながら検証を重ね、ソフトキャンディに含まれるたんぱく質に、フーセンガムの膜を丈夫にする働きがあることがわかりました。
品質の可視化と進化
安心・安全の定番品質
例えば、ガーナの大きな特徴の1つは『なめらかさ』です。『なめらかさ』はチョコレート中の油脂の溶け方や舌触りなどにより生じる官能特性であり、私たちはそれらの特性を数値化することで製品の品質設計を行っています。下図は、ガーナの粒度分布を示したものです。粒度分布測定装置を用いて、粒子が一定以下の大きさになっていることを確認しています。また、『なめらかさ』を構成する要素として、粒子の大きさ以外にもいくつか考えられます。例えば、油脂の溶解曲線の比較による口溶けの研究や、粘弾性測定による食感研究を通じて『なめらかさ』の定量化に取り組んでいます。
長年愛され続けるために
製品がきちんと、求められる品質に到達できているかを物性測定でも確認しながら研究しています。幅広くお客様の手に届くように、その品質を数値という形で可視化し、製品の価値を伝えることも大切な業務の1つです。
チューインガムは「噛むこと」に特化した食品
ロッテは1948年の創業以来、チューインガムを生産・販売しています。チューインガムは、いつまでも一定の強さやリズムで咀嚼することができる、「噛むこと」に特化した食品です。
「噛むこと」の効用は広く知られており、様々な側面で生活の質(Quality of Life : QOL)の向上に貢献できるものです。ロッテは、チューインガムの特性である「噛むこと」を通じて世の中に貢献していきたいと考えています。
ロッテは、「噛むこと」の情報発信プラットフォームとして、2017年にホームページ「噛むこと研究室」を開設しました。現在、さまざまな研究機関と連携して、医科、歯科、家政学など、多様な角度から、エビデンスに基づいたコンテンツを制作しています。
「噛むこと」にまつわる情報や研究成果をまとめています。ご興味ある方は是非、ホームページを覗いてみてください。