フォロワー数30万人超! お菓子の空き箱から広がるファンタジーの世界空箱職人 はるきるさん
金の鎧(よろい)をまとい、いななく馬にまたがる「アーモンドチョコレート」の騎士。ファンタジー映画に出てきそうな「トッポ」の天空の城、ドラムを演奏する「コアラのマーチ」くん……。誰もが知っている箱から立体的な作品を生み出す「空箱職人」のはるきるさん。クオリティーの高い作品がツイッターで注目を集め、今やフォロワー数30万人を超える人気アーティストに。そんなはるきるさんに、空き箱工作の魅力やこだわりを伺いました。
箱選びの基準は「みんなが知っている」こと
――あの「アーモンドチョコレート」の箱が、勇壮な騎士に生まれ変わるとは驚きです。何を作るかは箱を見て決めるのですか? それとも、作りたいモチーフに合う箱を探すのでしょうか。
箱を見た時のインスピレーションで決めます。「アーモンドチョコレート」は、メタリックな金色のパッケージから鎧を連想し、そこから騎士や馬のイメージを膨らませていきました。同じように、「トッポ」は白と茶色の配色からお城を、「コアラのマーチ」は名前の通りにマーチングバンドのコアラを……というように、オリジナルの箱の色やキャラクターを生かして、立体的で面白い作品に仕上げます。
――お菓子の箱が多く使われていますが、箱を選ぶ時の基準はありますか?
誰もが知っている商品の箱を選びます。ぼくの作品は、みんなが知っている箱が立体的に変化するのがテーマ。見る人に、「あの箱から、こんなものが?!」という変化を楽しんで欲しいのです。元の箱を知らないと面白さが半減してしまう。お菓子の箱が多いのは、SNSで作品を発表しているので、ユーザーの多い高校生や大学生がよく知っているものを選んでいるからです。
――共通認識があるからこそSNSで盛り上がるのですね。絶妙な場所に配置されたロゴやキャッチフレーズにも遊び心を感じます。
ロゴや象徴的なフレーズは「箱らしさ」を残す大切な要素です。文字があることで、「ああ、あの箱だな」とみんなに伝わる。この位置にこういう風に使ったら面白いだろうな、と考えながら、試行錯誤して組み立てます。
――複雑な構造や動きもリアルに表現されています。何かを参考にするのですか?
好きなモチーフは、ある程度想像で作れるのですが、よく知らないものはインターネットや本などで調べてから取りかかります。写真を見て、頭の中で完成図を作り上げたら、あとは実際に手を動かすだけ。設計図は描かず、フリーハンドで作ります。
――設計図もなく、いきなりチョキチョキ?! 完成するまでに何度もやり直すのでは?
基本的には一発勝負です。作品を作るときは、頭の中で完成図をパーツに分け、箱から切り出して、それぞれに組み立てていきます。馬だったら、まず頭部を作り、次に胴体、前脚、後ろ脚とパーツを作って最後に組み立てる、という手順です。途中でミスが判明しても、そのパーツだけを作り直せばいいので、最初からやり直さずに済むんです。使う道具はハサミ、カッター、定規、セロハンテープなど簡単に手に入るものばかり。特別な道具は必要ありません。
――まさに神業ですね。そのスキルはどうやって身につけたのでしょう?
子どものころから工作が好きで、いろいろ作ってきたので身についたというか、感覚で作っているようなところもあります。頭の中で平面の図を立体にしたり、逆に立体を展開したりするのは、昔から得意だったんです。
幼少期の成功体験からペーパークラフトの道へ
――小さいころは、どんなものを作っていたんですか?
幼稚園のころは、テレビの戦隊ものに出てくる武器とか、仮面ライダーのベルトとか、欲しいものを家にあったチラシや折り紙で作って遊んでいました。祖父母が小さなスーパーを営んでいて、常連のおばあちゃんたちが「上手だね」とほめてくれるのがうれしくて。今思えば、それがペーパークラフトの道に進むきっかけになった最初の成功体験だったのかもしれません。好きなことを追求したくて、名古屋の工芸高校に入り、神戸芸術工科大学のアート・クラフト学科へ進学しました。大学でも空き箱をテーマに制作をしています。
――空き箱を使った工作を始めたきっかけは?
2年ほど前、チョコレートのパッケージにイラストを描いてSNSに投稿するのがはやった時に、立体のほうが面白いだろうとロボットを作って投稿したら、びっくりするほど反響があったんです。それ以来、空き箱を使った作品を作っては、ツイッターで投稿するようになりました。
――頻繁に投稿されていますが、1つの作品を作るのに、どのくらい時間がかかりますか?
構想を練る時間は別として、実際に作り始めてからは1時間程度でできるものもあれば、昨年作った「シャルロッテ」の街のように20時間くらいかかるものもあります。動物など曲線のあるモチーフと比べて建物は比較的作りやすいのですが、パーツが多い分、時間がかかりましたね。
――小さな人物や動物があちらこちらに隠れていて、とても楽しい作品ですね。こんな街があったら訪ねてみたいです。
ありがとうございます! 「シャルロッテ」の箱はイラストが素敵なので、それを最大限に生かしました。4種類の箱を4つずつ、全部で16箱使っています。窓に奥行きを出すために同じ絵を何枚も重ねて貼ったり、人物や動物のイラストを切り出したり、作業量が多くて時間もかかりましたが、何より難しかったのは店の配置です。「行ってみたい」と思わせるような、入り組んだ街を表現したくて、どの建物をどこに置くか悩みました。デザインを考える時間のほうが長かったかもしれません。
元の箱とのギャップが大きいほど面白い
――作品づくりで大切にしていることや、こだわっていることは?
1つは、箱しか使わないこと。どんなに細かいパーツも箱から切り出します。もう1つは「意外性」です。元の箱やキャラクターとのギャップが大きいほど面白い。たとえば、キャラクターの顔に体をつける時、普通に考えたら2頭身にするところを、あえて8頭身くらいのスリムなボディーにします。また、魅力的な作品にするには、ファンタジーの要素も欠かせません。実際にはありえないものでも、表現がリアルだと意外性が生まれます。そもそもお菓子の箱で工作というと、ぱぱっと簡単に作るイメージなので、精巧に作られていることも意外で面白いと思うんです。だから、細部までこだわって作っています。
――9月には名古屋で初めての個展を開かれましたね。いかがでしたか?
普段、ツイッターでたくさんの方からコメントをいただけることが励みになっているのですが、個展では初めて生の声を聞くことができました。一番うれしかったのは、小学1年生くらいの男の子がぼくの作品を、「お年玉の1万円で買いたい!」と言ってくれたこと。小さな子にとって1万円といえば、大金じゃないですか。それほどまでに欲しいと言ってくれたことがうれしくて、やっていてよかったと思いました。
――将来は、どんなアーティストを目指していますか?
アートというと、難しくてよくわからないイメージがありますが、ぼくは誰が見ても面白いと思える作品を届ける、身近なアーティストになりたい。今後も空き箱を題材に、夢のある作品を作り続けたいです。いずれは外国のお菓子の箱にも挑戦してみたいし、作りたいものは、まだまだたくさんあります。ぼくらの身の回りには、魅力的な箱があふれていますから(笑)。
取材・文 森 奈津子
2019-10-30