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砥部焼の窯元大西陶芸にて。手にしているのはカカオハスクを釉薬に使用したタイル 熊澤正純さん(左)、大西先さん(中央)、芦谷浩明(右)
砥部焼の窯元大西陶芸にて。手にしているのはカカオハスクを釉薬に使用したタイル。
熊澤正純さん(左)、大西先さん(中央)、芦谷浩明(右)

「チョコレート領域を中心とした技術革新とアップサイクルなどを通じた、新たな価値創出、社会課題解決」を目指し、株式会社ロッテが挑戦の一つとして進めているのが、チョコレートの副産物「カカオハスク」(カカオの種皮)を陶磁器に使うという試みです。
今回、ロッテ執行役員の芦谷浩明は、日本ハイドロパウテック社代表取締役の熊澤正純さんとともに、陶磁器タイルの製作をお願いした愛媛県砥部町の「大西陶芸」を訪問。窯の見学ののち、試作品を見せていただきながら、熊澤さん、大西陶芸代表の大西先さんにお話をうかがいました。

(以下敬称略)

芦谷 加水分解技術の分野において独自の技術をもっている日本ハイドロパウテックさんとともにカカオ資源の有効活用を進めていて、2023年5月にはベトナムのカントー大学、そして株式会社タケショーおよびタケショーフードベトナムと「カカオポッドの土壌改良剤としての有効性検証」に関する共同研究を開始しています。
そして今回、チョコレートの副産物であるカカオハスクを陶磁器に活用していくという取り組みが形になりました。
チョコレートづくりでは、カカオ豆を焙煎、粉砕し、チョコレートに使用するカカオニブと利用できないカカオハスクに分けますが、大量のチョコレートを作る過程では、カカオハスクが年間数百トンも出ています。カカオハスクはこれまで、なかなか思い通りに活用できていませんでした。

熊澤 これまで廃棄されていたカカオハスクはものすごい量ですね。日本で1、2を争うチョコレートメーカーですから、大量に出るのは、ある意味、仕方のないことだとも思います。
今回は今まで捨てられていたものに、いかに付加価値を与えて世の中に役に立つ形でリターンしていくかという新たなプロジェクトのスタートとなります。
ちなみに今までは、どのように処分されていたのでしょう。

芦谷 農業用肥料や飼料などとしていました。ほとんど利益も出ないような状態で、いわば処理しています。今回、日本ハイドロパウテックさんとタッグを組むことでカカオハスクに新たな役割を与え、付加価値をつけ、世の中の人たちに驚きや感動を与える、そういうきっかけになったら、と考えています。

熊澤 そうですね。当社の加水分解技術を使えば、カカオハスクを食用に利用することも可能になるのですが、さすがに数百トンですと使いきれる量ではありません。そこで従来なかったアップサイクルの方法を探る…という取り組みの一つとして今回トライしたのが焼き物、陶磁器に再利用するという方法です。

芦谷氏(左)、大西氏(中央)、熊澤(右)

芦谷 カカオハスクから陶磁器って、本当にびっくりしますね。カカオハスクって、そもそも土から生えた木に実がついて、種子になって、その皮の部分ですから、熊澤さんが以前おっしゃっていた「土に還す」いうコンセプトに近しいものを感じます。

熊澤 はい。土から出てきたものを土に還すのも大事ですし、土に還すなら、なるべく長持ちしてほしいと思います。すぐに壊れてゴミになったらもったいないですよね。
そこで、今回はできるだけ丈夫な陶磁器を作っていただきたいということもあり、ご協力いただいたのが、砥部焼の窯元、大西陶芸さんです。今日おじゃましている愛媛県砥部町は、伝統的なお茶碗「くらわんか碗」など美しい器で知られる、有名な陶磁器の里です。
事前にカカオハスクの加水分解物…つまりカカオハスクを当社の技術で非常に細かいパウダー状に分解したものを大西陶芸さんにお送りし、陶磁器の釉薬(ゆうやく)に混ぜて使っていただきました。

芦谷 釉薬とはどのようなものなのですか?

大西 釉薬というのは、陶磁器の表面を覆っている、つやつやしたガラス質の部分のことです。素焼きの段階で陶磁器の表面に塗る薬品のことで、塗って焼くとガラス質に変わり、陶磁器を丈夫にして、水分がしみこむのを防いでくれます。

芦谷 ああなるほど。そういう役割があるのですね。

熊澤 釉薬に含まれている成分によって、色や質感が変わってくるんですよね。今回、カカオハスクの加水分解物を使ってみていかがでしたか?

大西 カカオハスク自体、ぼくも初めて見るもので、全く性質がわからなかったので、まず窯業試験場という公的な機関にお願いして、成分分析をしてもらいました。そのうえで、実際に釉薬に混ぜてみたのですが、有機物なので、焼くとなくなってしまいます。
そこで、実際カカオハスクが焼いてどのくらい残るかをしっかり見極めるというところから始めました。第一段階として、そのまま生のパウダー状のカカオハスクを釉薬に混ぜながら使ってみたのですが、想像以上に油分が多く、生地に吸い込まれてしまうようで、うまくいかなかった。そこで、一度カカオハスクを焼いてみて、灰にして釉薬に混ぜ込んでみたんです。すると、とてもいい雰囲気に焼きあがりました。

産業技術研究所窯業技術センター
産業技術研究所窯業技術センター

芦谷 まるでダークチョコレートのようなブラウンで、非常にいい色ですね。

熊澤 本当に落ち着いた、いい色合いに仕上がっていますね。

大西 はい。今回は時間的な制約もあったので、当社でもともと持っている釉薬に混ぜるという形になりましたが、もっと消費量を上げていくのであれば、このカカオハスクで1回焼いたデータをベースに釉薬を作っていくこともできます。応用すれば、また新たな雰囲気に焼き上がるでしょうし、かなり可能性があると思いますね。

熊澤 今回焼いていただいたのは器ではなく、タイルです。日本ハイドロパウテックが、シンガポールに作っている「ANY1 CHOCO(エニワンチョコ)」という店舗に使うタイルの釉薬として使っていただきました。焼いていただいたタイルのサンプルにはOFとRFと書いてあります。これは何を意味するのでしょうか。

OF、RFと書かれたサンプルタイル
OF、RFと書かれたサンプルタイル

大西 陶磁器の焼き方には酸化焼成と還元焼成の2種類がありまして、OFは酸化焼成、RFは還元焼成の略です。酸化焼成は、窯の中に酸素をしっかり送り込みながら行う焼成で、素地や釉薬がその成分に含まれる金属酸化物に応じた色が出ます。対して、還元焼成は酸素の送り込みを制限した状態で焼きますので、窯の中の酸素が不足し、土や釉薬に含まれる金属酸化物から酸素を奪うことになります。それで物質の色合いが変わってきます。
ただ、酸化焼成(OF)の場合、生地が黄色くなってしまうので、砥部焼は一般的には還元焼成(RF)を行います。今回は実験的な意味も含め、両方でやってみました。
どちらも、いただいたカカオハスクをそのまま30パーセント程度、釉薬に混ぜて、酸化焼成と還元焼成という両方のやり方で焼いています。それにさらに鉄を6パーセント、10パーセント、12パーセント混ぜ込むという形で実験しました。酸化焼成、還元焼成それぞれ面白い色に焼きあがりました。

サンプルタイル

熊澤 キレイですね。私の知っている限りでは、いわゆる飴釉という釉薬が、確か鉄を用いて焼いて発色させるものと聞いています。この酸化焼成のタイルなんか、なんともいえない不思議な色に出来上がっています。鉄だけではこんな色にはならなそうな気がしますが、やはりカカオハスクによる影響なのでしょうか?

大西 おそらく釉薬の中で鉄と反応したりして、今までにないような独特な風合いになったと思います。

芦谷 カカオハスクが思いもよらない形で活用されたのは、うれしい限りです。

対談の様子

熊澤 今回、実際に店舗に使うタイルも、いわゆる吹付けではなく手で塗ったとお聞きしました。手仕事ならではの独特のムラ感が、非常に味わい深いです。釉薬の掛けやすさという点で、カカオハスクの分解物と混ぜた釉薬はいかがでしたか?

大西 想像以上に使いやすくて、最終的にはある程度量産に向けていけそうな、ちょうどいい雰囲気になりました。

熊澤 タイル以外の用途もあるかもしれませんね。例えばチョコレートを入れるケースとか。

芦谷 そうですね。チョコレートケースもいいですし、何かお菓子ケースのような、おやつを入れる箱にしてもよさそうです。実物の焼き上がりのこの美しさを見て、例えば将来、当社のECサイトで販売するなど、いろいろな可能性が感じられました。

大西 いいですね。このカカオハスクを使った釉薬は、本当に柔らかい感じになりました。工夫によっては、もっとグラデーションが出ると思いますし、より美しい表情にできそうです。

熊澤 このタイルが実際に当社のシンガポールの店舗に貼られると考えると、非常に楽しみです。チョコレートやお菓子の業界で、こういう形のアップサイクルは珍しいんじゃないかと思います。

芦谷 確かに。紙にハスクを使った例はありましたが、ここまで芸術的なアップサイクルは初めてだと思います。

熊澤 今回はカカオハスクという素材で砥部焼の大西陶芸さんにお願いしていますが、他の食品の副産物でももっと実験してみたいですね。

芦谷 今ちょうど、ここ四国でカリンが栽培されており、のど飴の主原料である国産カリンエキスの一部を担っています。ただ、カリンのエキスを抽出した後は、使い道がないんです。カリンは様々な成分も含んでいるでしょうし、油は少ないので、陶磁器にも使えるかもしれませんね。

対談の様子2

熊澤 それはいいですね。砥部焼も四国代表ですし、メイドinオール四国な、四国らしい何かができそうです。より地域に根差した取り組みができたら素晴らしいですね。

大西 はい。砥部焼は地元の陶石を50%以上使っています。さらに愛媛県の名産である柑橘、カリンも使えるなら、ぜひ挑戦してみたいです。

熊澤 シンガポールの店舗では、単純に日本製品を紹介するだけでなく、こういう日本人ならではの「もったいない精神」とも言えるアップサイクルの事例も紹介していきたいと考えております。また、我々は新潟県の会社ですので、いわゆる地方創生につながる取り組み、東京一極集中ではない発信が必要だと思っています。
陶磁器の魅力って、半永久的に使えることだと思うんです。アップサイクルしてもすぐに捨てられてしまう物だと、もったいないなと思います。窯業でアップサイクルすれば、無機物と有機物が組み合わさり、ずっと使える物が生まれるというのが非常に面白いです。

ANY1 CHOCO シンガポール店(Photo: ambiguous Yusuke Hattori)
ANY1 CHOCO シンガポール店(Photo: ambiguous Yusuke Hattori)

芦谷 これを機会に、日本ハイドロパウテックさん、砥部焼の大西陶芸さん、そして我々ロッテという三者で様々な取り組みに挑戦していきたいと思います。

熊澤 そうですね。よろしくお願いします。

大西 よろしくお願いします。

芦谷 本日はどうもありがとうございました。

(了)

日本ハイドロパウテック株式会社
独自の加水分解技術を開発、食品製造に利用・応用できる機材とノウハウを国内外の企業や工場に提供。平成28年創業。

https://hydro-powtech.co.jp/
大西陶芸
大西陶芸
愛媛県、砥部焼の窯元。昭和45年創業。

https://www.ohnishitougei.jp/
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