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今年2月に誕生した新ブランド「YOIYO(ヨイヨ)」。“日本に酔うチョコレート”をコンセプトに、全国から厳選したお酒をロッテの技術でミルクチョコレートに閉じ込めました。新しい生活様式への適応が進む中、“おうち時間”をより豊かに過ごしていただくためのクラフト酒チョコレートです。新ブランド最初のコラボレーションは、本坊酒造株式会社がマルス信州蒸溜所で製造しているメインブランド“駒ヶ岳”のシングルモルトウイスキーです。マルス信州蒸溜所のブレンダー 河上國洋さんがミルクチョコレートにマッチするウイスキー樽の選定とブレンドを担当し、「YOIYO」のためだけのウイスキーを開発。第一弾の「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」はいかにして完成したのか? ブレンダーの河上さんと、「YOIYO」の商品開発を担当するロッテの田中麻紀子に話を聞きました。

「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」シングルモルトとミルクチョコレートの出合い

——まず初めに、「YOIYO」第一弾で、本坊酒造株式会社(以下、本坊酒造)のマルス信州蒸溜所のメインブランド・シングルモルトウイスキー“駒ヶ岳”を使用することになった経緯からお話しいただければと思います。

田中 ことの始まりは本坊酒造さんとの出会いにあります。「YOIYO」商品化のテーマは日本のクラフト酒チョコレート。日本の風土や伝統の技を生かしたお酒を詰め込んだチョコレートです。タッグを組む酒造様を広く探していたところ、本坊酒造さんの経営理念である「地域文化の継承と革新」に強くひかれました。本坊酒造さんは、ウイスキーメーカーでもまれだと思うのですが、今回、コラボレーションすることになったマルス信州蒸溜所のほか、鹿児島県と屋久島と、合計3カ所にエージングセラーを持っていらっしゃいます。土地ごとの気候や風土にこだわって製造・熟成を行っている本坊酒造さんに感銘を受け、ぜひご一緒したいと思ったのです。

マルス信州蒸溜所の河上さん

河上 本坊酒造では、長野県(信州)と鹿児島(津貫)の2カ所でモルト原酒蒸留を行っていますが、田中さんがおっしゃる通り、屋久島にも樽貯蔵庫となるマルス屋久島エージングセラーがあり、セラーは全3カ所。環境が異なるところでの商品展開を行っています。
マルス信州蒸溜所があるのは長野県中央アルプス駒ヶ岳のふもと、標高は798m。花崗岩に磨かれた地下水があり、冬はマイナス15℃、夏は30℃以上と年間の気温の寒暖差が大きい土地です。森の中に蒸溜所があるため、空気が非常にきれいで霧も多い。樽の中のウイスキーは呼吸をするように空気や水蒸気を取り込みながら熟成を重ねていきます。そうした環境や土地柄を生かしたウイスキー造りや商品展開をしていることに共感していただけたのはうれしかったですね。

ロッテの田中

田中 最初、“駒ヶ岳”ブランドというシングルモルトウイスキーの世界観をチョコレートで表現しきれるのか、という不安はありました。それでも、“お酒の造り手を介して日本の良さを再発見する”というクラフト酒チョコレートのテーマは本坊酒造さんの理念に合致すると確信しましたので、アタックさせていただきました。

河上 弊社は独創性のある商品づくりとして、ワイン樽やビール樽を使ったウイスキーを販売しています。そのため、チョコレートとのコラボレーションというお話も躊躇(ちゅうちょ)なく受け入れることができました。とはいえ、“ウイスキーを包んだ”チョコレートをつくるのは初めてのこと。ゼロからの樽選びや、試作品をつくってのご提案など未経験のことばかりでしたから不安もありました。一方で、ブレンダーとして新しい発見や経験ができる、という期待感が大きかったのも確かです。

マルス信州蒸溜所の複数の樽を対象にブレンドを考案

マルス信州蒸溜所

——「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」の完成までには試行錯誤があったと思います。エピソードをお聞かせください。

田中 「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」ではミルクチョコレートを使用しています。ビターチョコレートという選択肢もあったのですが、なめらかな口どけとまろやかな甘さ、華やかなバニラ香が特徴のミルクチョコレートは、ロッテらしいチョコレート。そこに、本坊酒造さんのシングルモルトウイスキー“駒ヶ岳”を合わせると、素晴らしい化学反応が起きるのではないかという期待を込め、ミルクチョコレートを選びました。

河上 個人的には、ウイスキーに合うのはビターチョコレートかな?というのが最初の印象でした。ところが実際に合わせたときのミルクチョコレートを食べてみたら、そのなめらかな口どけから、信州の駒ヶ岳のイメージを感じることができました。“駒ヶ岳”というブランドは、信州の環境を彷彿(ほうふつ)とさせる“クリーン&リッチ”な味わいをコンセプトにしています。冷涼な環境で育ったウイスキーはとてもクリーンですし、天然のミネラル分をバランス良く含んだやわらかな仕込み水を使っていることから丸みを帯びて柔らかい味わいになります。それが最終的にミルクチョコレートにマッチしたと思います。

田中 ミルクチョコレートとはいえ、チョコレートには、カカオというしっかりした味わいがあります。それにウイスキーの熟成された香り、樽の香りというのはどれだけ相性がいいのか、どうブレンドすればバランスがとれるのかなど、折り合いを見つけるのが難しかったですね。
試作品をつくるに当たっては、まずチョコレートの中に閉じ込めるウイスキーの評価から進めていきました。最初、河上さんがチョコレート用に考えてくださった、いくつかの“駒ヶ岳”のブレンドをロッテの研究チームとともに評価していき、その後、実際にチョコレートで包んだ試作品を食べながら、それぞれのウイスキーの良さを感じていく作業を繰り返しました。河上さんは、全部の樽を対象にブレンドを考えて下さったんですよね。

河上 はい、マルス信州蒸溜所にある全樽を対象に選びました。絞り込んだのが、バーボンバレル(樽)とシェリー樽から考えたブレンドです。前者は、駒ヶ岳の骨格をつくっている原酒で、樽の数も一番多い。後者は、ぶどうを原料にしたお酒を用いたラミーとバッカスからヒントを得た樽です。ただ、ミルクチョコレートで包んでから味わってみると、 “駒ヶ岳”を一番表現できるのはバーボンバレルであるという結論にたどり着きました。

何種類ものウイスキーの香りを確かめる河上さん

田中 実は私も河上さんが候補に挙げてくださったシェリー樽に魅力を感じていました。ウイスキーの評価をする際、あまりにおいしくて飲み干してしまったのですが(笑)、ミルクチョコレートに包んでから食べてみると、シェリー樽の味がかなり濃く感じられて、カカオの香りとウイスキーの香りが分離している印象を受けました。これだとウイスキーとチョコレートは別々に味わいたくなるな、と。

河上 そうでしたね。

田中 一方、バーボンバレルのほうは、最初にミルクチョコレートがふわっと香り、あとのほうで“駒ヶ岳”の香りが口のなかに広がりました。最初は美味しいミルクチョコレートを食べている感覚だったのですが、最後は、柔らかな“駒ヶ岳”に包まれて終われたんです。そのときは会議室だったのですが、ソファに座っているようなリラックス感が生まれた。その香りのバランス感が素晴らしかった。

河上 おっしゃる通りですね。今回選んだブレンドとミルクチョコレートのマッチングで一番いいなと思ったのは、食べたときの“鼻から抜ける香り”。それがまさに信州の環境を彷彿とさせる“クリーンさ”で、決め手になりました。

田中 “鼻から抜ける香り”というのはすごく共感します。試食の場でも、チョコレートと“駒ヶ岳”のクリーンなバランスがすごく合うと満場一致でしたね。ほっとした瞬間でした。

ブレンダーの仕事は宝探し?

——お二人の苦労した点をお聞かせください。

この樽の中でウイスキーは熟成する

河上 私はマルス信州蒸溜所に入社して5年目になるのですが、ブレンダーとしては2年目。チョコレートとのコラボレーションも初めてですから、探り探り進めていくしかなくて。そもそもブレンダーという仕事は、ブレンドという工程の前に、まず信州にある何千という樽の状態をすべて把握しなければなりません。しかも、ふたを開けて味を見てみるまでは状態がわからない。まるで宝探しです。もちろん、“お宝”を見つけたり、来年はどうなっているんだろうと想像したりする楽しみもある。ブレンドの工程も未知の世界。Aというお酒とBというお酒、2つを混ぜるとCというまったく異なるお酒ができあがるんです。それが醍醐味(だいごみ)でもありますが、予想もしなかった味になることも多いので悩みますね。
今回のプロジェクトは、樽を選ぶときから「チョコレート」に合わせて香りのバランスを考える必要があったので、これまでのブレンダーとしての仕事とはまったく異なる作業でした。しかも、実際に試作品をつくるまでは、自分でウイスキーをチョコレートに閉じ込めることはできないので、想像するしかありません。もちろん、ロッテさんのチョコレートはかなりの量を食べて研究しましたが、チョコレートとウイスキーを合わせて食べることと、実際にウイスキーを閉じ込めたチョコレートを食べることとは違います。そこが一番苦労した点です。

田中 マルス信州蒸溜所を訪ねた際、会議室にロッテのチョコレートが置いてあるのを拝見し、相当研究してくださったのだなと思いました。

河上 ウイスキーの場合、まずグラスに注いだときに立ち上る香り(トップノート)をかぎ、次に口に含んで味わい、最後に余韻(アフターテイスト)を楽しむわけですが、チョコレートに包むとトップの香りはあくまでもチョコレート。口に含んで初めてお酒の味や香りがやってくるのだと知りました。味わい方が異なるのは新しい発見でしたが、そうしたなかでの樽選びやブレンドの工程はかなり難しかったですね。

田中 ブレンドしていただいた“駒ヶ岳”をグラスに注ぎながら香りの評価をしていった際、それぞれの原酒の個性を説明してくださる河上さんを拝見し、我が子の成長を見守っているような“ウイスキー愛”を感じました。その分、河上さんが愛する“駒ヶ岳”の熟成された味や個性を、ミルクチョコレートで包んでからでも表現できるのかな、という最初の不安はますます大きくなりました。それだけに、本坊酒造のみなさまに完成した試作品で「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」の繊細さを評価していただけたとき、「これまでにない洋酒入りチョコレートの新しい味わいに仕上がった」という手応えを感じることができました。本当にうれしかったです。

河上 ありがとうございます。

田中 これだけウイスキーの味と香りのバランスと相性を知り尽くしている河上さん率いるチームと、ロッテのチョコレートの研究チームがタッグを組めば、絶妙な味に到達する、ブレイクスルーは当然のことかもしれません。いいシナジー効果が生まれたのだと思います。すみません、私自身の苦労はあまりなかったです(笑)。

信州のクリーンな環境を思い浮かべながら食べてほしい

パッケージは絵はがきに見立てた。「デジタル化が進む現代では、はがきや手紙といった人の体温が感じられるコミュニケーションは貴重。信州からのはがきが届いたかのような気持ちで受け取っていただくというのもコンセプトの一つです」(田中さん)

——「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」を手に取る方に感じてほしいことや、メッセージをお聞かせください。

田中 “駒ヶ岳”は、なかなか流通ができないブランドで、本当にウイスキーの好きな人が買い求める貴重なお酒だと思うんです。それだけに、これまで“駒ヶ岳”に出合う機会がなかった方も、このチョコレートを通じて“駒ヶ岳”を知ってほしいですし、信州の良さを深く学んでいただけるようなクラフト酒チョコレートになったと自負しています。
「YOIYO」というネーミングの背景には、「良い宵」を過ごしてほしいという思いもあるのですが、誰かに「良いよ」とおすすめしたくなる商品、という意味も込められています。「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」を通じて見つけた“日本の再発見”を、SNSなどで発信していただけたらと思います。

河上 私はやはり信州の中央アルプスのふもとという、“駒ヶ岳”を“つくっている場所”を思い浮かべながら食べていただきたいなと思います。それが今回のコンセプトでもありますし、また私たちが伝えたいものでもあります。
また、ウイスキーは飲めないけれど、チョコレートは食べられる、という方も多くいらっしゃると思いますので、そういう方にも“駒ヶ岳”の魅力を知っていただけるのではと期待しています。ウイスキーが普及してきた背景には、ハイボールブームがあると思っているのですが、それは“新しい飲み方の提案”でもありました。同様に、ウイスキーを包んだチョコレートで新しい飲み方、食べ方の提案ができるのではと思います。

田中 新しいウイスキーの飲み方ですか、いいですね。

河上 もちろん、飲めない方だけでなく、飲める方、ウイスキー好きの方にもできる提案だと思っています。近年、ウイスキーが好きな方は、どういう原料を使っているのか、どういう樽を使っているのか、熟成の環境や年月などにものすごく興味をもっていらっしゃる。それに対して造り手も応えていかないといけないと思っているのですが、そうしたウイスキーファンの皆さまにも、“駒ヶ岳”というウイスキーを片手に「YOIYO〈KOMAGATAKE〉」を味わってほしいという思いがあります。

田中 そう言っていただけるとすごくうれしいです。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。
最後に「YOIYO」の今後の展開についてお話しさせていただきます。数量限定になると思いますが、シリーズとして年に4回のペースで展開を考えています。「清らかな水と土地に根付いたお酒」をコンセプトに、伝統の技が生んだ味わいのお酒を巡りながら、日本の良さを発信していきたいと思いますので、期待していてください。

「YOIYO」開発背景

ロッテではかねてから高まりつつあった、「家族と過ごす“おうち時間”を大切にしたい」といった消費者ニーズに着目。お客様との深い関係づくりを大切にしてきたロッテがやるべきことは、こうした消費者の生活様式にフィットし、心に残る「体験価値」を提供できる商品づくりなのでは、との思いから開発はスタートしました。
チョコレート市場のなかでも洋酒入りチョコレートの市場は伸張傾向にあり、昨年の環境の変化以降も人気が高まっています。ターゲット層を、これまでの50~60代、さらには若い世代にまで広げ、現在の生活様式に即した洋酒入りチョコレートの提案ができるのでは、との期待感が強まりました。

「YOIYO」はロッテ初のD2C(Direct to Consumer)ブランド。ロッテオンラインショップのみで販売される数量限定商品となる。

そこで50~60代に刺さるインサイト(心を動かすスイッチ)を考えてみたところ2つのことが見えてきました。「夫婦の会話を豊かにする話題」と「知識力を高めたいという欲求」です。ここから、日本の風土を存分に生かしたお酒を包んだクラフト酒チョコレートが、夕食後の時間を心地よく酔わせ、造り手の思いを語り合ったり、日本の良さを再確認したりしている情景を思い浮かべながら商品化をしました。より多くの方にこの「YOIYO」を楽しんでいただけたらと思います。(田中)

もうひとつの洋酒商品シリーズ

「YOIYO」の販売に合わせ、もうひとつ、洋酒商品シリーズ「Rummy Terrine(テリーヌ)」も同時発売されました。ラム酒に長時間つけ込んだ柔らかなラムレーズンを、濃厚なテリーヌ生地に閉じ込めたチョコレートテリーヌで、口に含むと華やかなラムの香りが口いっぱいに広がる。こちらもロッテオンラインショップのみで販売される数量限定商品。

構成 辻 啓子

日本のクラフト酒チョコレート「YOIYO」特設サイト

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