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ZOZOマリンスタジアムで今シーズンも開催された「売り子ペナントレース」。売り子が販売杯数を競う決勝ラウンドは、参加総数146人のうち、各月1位となった5人によって争われました。2019年のチャンピオンに輝いたのは、3811杯(※)を記録した「ななさん」。受賞の喜びとともに、売り子の仕事について詳しく伺いました!

——「2019年売り子ペナントレース」での優勝、おめでとうございます!

優勝が決まり、最初は「まさか!」という思いがありました。「えっ! 本当に?」という感じでしたね。優勝は想像していなかったですから。でも、今は素直にうれしいです。

——今シーズンのレースはどんな思いで挑んでいましたか?

昨年2018年の8月ごろから売り子をさせていただいています。実質、昨年は2カ月ぐらいしか働いていませんでしたので、今年も新人のつもりで「初心に戻って売ろう」。シーズンを通して、そんな思いでやっていました。

——もともと売り子の仕事には憧れがあったのですか?

小学3年生の時、初めて家族でZOZOマリンスタジアムに観戦に訪れたのですが、私の父親がビールを頼んだ際に売り子さんの雰囲気がすごく素敵で明るく接してくれたんです。その時に、売り子さんの接し方一つで気持ちが高まるんだということを感じました。もともと野球が大好きでしたし、高校時代には野球部のマネジャーをやっていたこともあり、地元の大好きな球場で売り子の仕事ができればなあと、ずっと思っていました。売り子の面接では、球場が好きで、地元が本当に好きなんだということをお話ししました。あと、自分の得意なところとして「人と接すること」をアピールし、ずっとやりたかった売り子の仕事に就くことができました。

背負うタンクの総重量は18キロ

——ななさんが売り子として大事にしていることは?

笑顔とあいさつ。この2つを本当に大事にしています。総重量約18キロのビールが入っているタンクを背負って1日平均5~6時間、階段を上り下りします。とにかく、歩きっぱなし。気を抜くと笑顔を忘れがちになってしまうのですが、スタンド内で売る時だけではなく、コンコースを歩いている時でもニコニコすることを大事にしています。お客様の気持ちを考えれば、ニコニコして楽しく販売していたほうが気持ちがいいですよね。そこは常に意識しているところです。

——「明るく! 楽しく!」。その思いは、ななさんが小学3年生の時にマリンスタジアムで見た光景や感じたものそのものですね。

あの時、素敵な「笑顔」に出合えたことは、私にとって大きかったと思います。

——では、改めて売り子さんの仕事についてうかがいたいのですが、一日のスケジュールを簡単に教えてください。

デーゲームの時は、11時過ぎにマリンスタジアムに到着して12時からの全体朝礼までに身支度を整えます。試合が終わるのが17時ぐらい。そこから売り上げの精算などをしてスタジアムを出るのが18時過ぎです。ナイトゲームの時は、仕事の前に浦和などへ行ってファームの試合を観てからスタジアムへ向かうこともあります(笑)。

——それにしても、重いタンクを背負って働く仕事は体力的に大変ですよね。日々のトレーニングはしているのですか?

自宅からマリンスタジアムまで歩くと片道1時間ぐらい。試合がない日などは、サウナスーツを着て歩いたりしています。海が近くにある場所なので朝などは、すごく気持ちもいいですし、歩くことが好きなので、そういったことで体力作りはしていますね。また、中学時代はソフトテニスをしていました。小さい頃から体を動かすのは好きでしたので体力には自信があるんですよ。そういうベースもあり、私は売り子として「誰よりも歩く」ということを意識してやっています。だから、仕事が終わった時のユニホームは、汗をたくさん含んですごく重いんです。試合後半からはレモンサワーを売るんですけど、タンクに加えて計6キロの氷を持って歩くので、正直、体力的には大変かもしれない。でも、不思議とタンクを背負うとスイッチが入っちゃうんですよね。重さを感じずに仕事ができています。

ホームランボールが直撃

——ハードワークの中で体力が落ちたり、時にはけがをすることもあると思います。

実は今年8月、内野席で階段を踏み外して落ちたことがあって……。夏場は連戦もたくさんありましたので、ちょっと自分では気づいていない体調の悪さというのが表に出てしまったのかなあと思います。あと、9月に外野席で販売をしていた時に、マーティン選手のホームランボールがふくらはぎを直撃したことがあって……。打球が当たった直後は、何が起きたのかわからなかったのですが、むちゃくちゃ痛くて、半泣き状態(笑)。でも、すぐに思ったんです。「これを笑いに変えてしまおう!」って。周りのお客様が「大丈夫?」と声をかけてくださる中で、泣いているのか笑っているのかよくわからない感じでしたが、「大丈夫です!」と言いながら販売を続けました。売っている時は、アドレナリンが大放出! だから、それほど痛みは感じずに仕事を続けましたが、試合が終わってから痛みがだんだん出てきましたね(笑)。

——そんなアクシデントもある売り子という仕事。販売する場所や歩くルートは決まっているのでしょうか?

販売するのは2階席と4階席なのですが、その中で売る場所は決まっていないので、売り子はそれぞれ考えて回っています。タンクの中身を交換する場所、通称「基地」というところがあるんですけど、その場所から出て三塁側を通り、外野席へ行く。そして一塁側へ行って、あとはその一連の動きで何周もグルグル回るという流れが、私の通常のルートですね。

——売り子さんの動き方で、売り上げも変わってくると思います。

そうですね。タイミングというのがすごく大事になります。応援しているチームの選手が打って盛り上がっているところへ行くと、お客様もテンションが高まっているので、ビールがよく売れるんですよ(笑)。

——今シーズン、もっとも売り上げが多かった日は?

最終戦は、シーズン最高の412杯。私の場合、シーズン当初は200杯ぐらいから始まるのですが、最終戦に近づくにつれてどんどん売り上げが増えていきました。今シーズンの最終戦は、私にとって忘れられない日になりました。お客様の中にはレースのことを知っている方がたくさんいらっしゃって、温かいお言葉をたくさんいただきました。「今日が最後なんだから、悔いのないように頑張って」「今シーズンは、ななちゃんから買えて本当によかった」「ななちゃんがいつもニコニコしているから、元気をもらったよ」。そんな励ましのお言葉をたくさんいただいて、うれしさがこみ上げて来るのと同時に、「最後だから頑張るぞ」という気持ちが湧き上がってきましたね。いろんな感情が交錯した最終戦は、これからも忘れられない一日だと思います。

——日々の努力があり今回優勝したわけですが、改めてその要因はどこにあったと思いますか?

周りの方々のおかげです。初めて球場でお会いした方もそうですが、いつも応援してくださる常連のお客様や、同じアサヒビールの売り子の仲間、タンクの中身を交換してくださる裏方のチェッカーという仕事をされている方たちもそう、多くの方から励ましの言葉をかけていただき、シーズンを乗り切ることができたと思います。体調面もすごく気にかけてくださって、そういうものが私の力になったと思います。来シーズンも、売り子は続けさせてもらう予定です。今まで先輩方にやさしく接してもらい、教えていただいた分、来年は新しく入ってきた売り子のみなさんに自分がこれまで教わったことを伝えながら、今シーズン同様に頑張りたいと思っています。

——今後の目標を教えてください。

売り子のお仕事をいつまでできるかわかりませんが、アサヒビールで12年間、売り子の仕事を続けられている大先輩の今井さやかさんのような存在になれたらいいなと思っています。みんなから慕われるような、マリンスタジアムの売り子といったらこの人でしょ! みたいな売り子さんになれたらと思っています。

——球場の魅力は、売り子さんの存在も含めてさまざまあります。ななさんにとってのマリンスタジアム、千葉ロッテの魅力は?

マリーンズは地元・千葉の方々に本当に応援されているチームなんだということは、売り子の仕事をしていても感じますね。勝敗に関係なくマリーンズを応援する気持ちは熱いものを感じます。本当に好きなんだなというのを実感しますし、愛されているチームなんだな、と。そこがマリンスタジアムを含めた千葉ロッテの魅力だと思います。

——ななさんが子どもの頃に見た原風景は、今でも変わらず球場にあるんですね。

そうですね、変わりませんね。これからもそんな素敵な場所で、売り子として頑張っていきたいです!

※売上杯数3811杯(2年目のため売り上げ杯数の140%で計算)

取材・文 佐々木 亨

なな
千葉県出身。2018年8月からZOZOマリンスタジアムで売り子として働く。今年「2019年売り子ペナントレース」で優勝。
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