entry category about
CONTENTS CATEGORY ABOUT

寒い日のおうち時間にぴったりなホットチョコレート。ブラックの板チョコで手作りすれば、ほろ苦いカカオの香りがいっそう引き立ちます。チョコレートに欠かせないカカオは長い間、「飲む」ものでした。でもそれは、現在のホットチョコレートとはまったく違っていて……。「探検 お菓子の原材料」第1回は、カカオの歴史をひもときます。

苦いけどクセになる? スペイン貴族をとりこにした門外不出のカカオドリンク

人類が作物としてカカオを栽培し始めたのは紀元前2000年ごろ、中米のメソアメリカと呼ばれる地域だと考えられています。古代の人々はカカオを「神の食べ物」として、神への捧げものや儀式に使用していました。カカオの学名「テオブロマ・カカオ」(テオ=神、ブロマ=食べ物)もこれに由来しています。また、お金としても用いられ、一説には、1粒で大きなトマトが1個、2粒で鶏の卵1個、100粒で野ウサギ1羽、200粒で雄の七面鳥1羽と交換できたとか。

アステカ神話では文化・農耕の神であるケツァルコアトル(右)が、人類にカカオをもたらしたと言い伝えられている

そんな貴重なカカオを口にできたのは、特権階級の人だけ。マヤ・アステカの王族や戦士たちは、すりつぶしてドロドロにしたカカオに、トウモロコシの粉やスパイス、バニラなどを加えた苦くてスパイシーなドリンクを、薬のようなものとして飲んでいました。16世紀、アステカの皇帝モンテスマ2世は、はちみつで甘みをつけたカカオ飲料を媚薬(びやく)として、黄金のカップで1日に50杯も飲んでいたと伝えられています。

1日50杯ものカカオ飲料を飲んでいたというモンテスマ2世

大航海時代のさなかにあった1521年、スペインがアステカを征服し、カカオは戦利品と共にスペインへ持ち帰られました。その後、砂糖を加えて飲みやすくしたカカオ飲料、「ショコラトル」は貴族階級の人々にもてはやされ、100年近く門外不出とされていましたが、17世紀にスペイン王女、アンヌ・ドートリッシュがルイ13世に嫁入りする際、フランス王室へともたらしたと伝えられています。その後、ヨーロッパ全土へと広まっていきました。

ちなみに、日本人で初めてカカオを口にしたのは、1613年に慶長遣欧使節団を率いてスペインに渡った支倉常長だったという説もありますが、記録には残っていません。カカオ(チョコレート)が登場する日本最古の文献には、18世紀末に長崎の遊女がオランダ人から「しょくらあと」をもらったことが書かれています。

チョコレートを「食べるお菓子」に変えた4大発明とは

先人たちの知恵によって、ざらつきのあるカカオ飲料からなめらかなくちどけのチョコレートに

カカオが現在のような食べるチョコレートへと進化したのは19世紀。4人の人物による発明が鍵となりました。最初の人物はオランダのバン・ホーテン。1828年、カカオに含まれるココアバターを搾り取り、ココアパウダーを発明し、お湯に溶かして飲むココアが誕生しました。この発明をきっかけに、1847年、イギリスのジョセフ・フライがカカオ豆をすり潰して砂糖を加えたものにココアバターを加え、食べるチョコレートの原形を開発します。

ミルクチョコレートの本場スイス。発明したダニエル・ピーターはろうそく職人だった

さらに、チョコレートはスイスで劇的な変化を遂げました。1875年にダニエル・ピーターが苦みをマイルドにしたミルクチョコレートを、1879年にはロドルフ・リンツがなめらかな舌触りにする製法を相次いで考案。現代のおいしいチョコレートへと続くこの4人の功績は、「チョコレートの4大発明」と呼ばれています。

こうして、紀元前のはるか昔から「神の食べ物」として珍重されてきたカカオは、ほろ苦い風味となめらかなくちどけのチョコレートとして、今も世界中の人々を魅了し続けているのです。

の こだわり

カカオへのこだわりは不変!ロッテ「ガーナミルク」

発売当初のパッケージ。カカオポッドとカカオ豆があしらわれている

ロッテが初めてチョコレートを発売したのは1964年。スイスから欧州チョコレート界の権威、マックス・ブラック氏をまねいて開発したのが「ガーナミルク」です。アメリカ式の軽い味わいが主流だった当時、「まろやかな口溶け、すっきりとした舌触り、ベーシックなおいしさ」が大反響を呼び、注文が殺到。しかしブラック氏は倉庫で十分にねかせるまで出荷を許さず、品質重視の姿勢を貫きました。

ブラック氏の信念は今も受け継がれています。ロッテ中央研究所チョコレート研究課の加藤雅樹は、「お客様の嗜好(しこう)に合わせてカカオやミルクの割合を調整するなど、時代に合わせて進化しながらも、『ガーナ』の“根幹”は揺るぎません」と言います。同研究課の安村智史も、「変えることで新鮮な印象を与えることもできますが、“いつもの味”を変えないことも勇気。自信を持って作っています」と胸を張ります。「カカオは生きものなので、豆の状態はいつも同じとは限りません。常に安定したおいしさを保つのは、変えることより難しい。そこがカカオの面白いところです」。時代とともに歩んできた「ガーナ」チョコレート。カカオにこだわり、変わらないおいしさで今日も誰かに笑顔を届けています。

(参考文献・ウェブサイト)
● ロッテウェブサイト 工場見学・学ぶ>チョコレートカフェ>チョコの起源と歴史
● 日本チョコレート・カカオ協会
● 書籍「チョコレートの世界史 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石」武田尚子著 中公新書
● 書籍「カカオとチョコレートのサイエンス・ロマン 神の食べ物の不思議」佐藤清隆・古谷野哲夫著 幸書房
● 書籍「チョコレート語辞典」Dolcerica 香川理馨子著 千住麻里子監修 誠文堂新光社
Shall we Share

ほかの連載もみる