「3時のおやつ」は親子で分け合う幸せの時間女優・歌手 相田翔子
学校から帰ってくるなり「ママ、おやつ~!」と言う娘の元気な声を聞くと、自分の子ども時代を思い出して、ちょっぴりノスタルジックな気分になります。
母が作ってくれたカスタードプリンが固まるのが待ち遠しくて、何度も冷蔵庫を開けてはプリンをつついたこと、ホテルマンだった父が「板チョコは冷やすとおいしいぞ」と教えてくれて、「お父さんっておしゃれ」と感心したこと、友達の家に遊びに行くと、その子のお母さんがトレイにいろいろなお菓子を盛ってくれたこと……。「おやつ」という言葉から、幸せで懐かしい情景がいくつも思い起こされます。
小学校低学年のころ、自宅の近くに小さな駄菓子屋がありました。木造平屋建ての古いお店を一人で切り盛りしているおばあさんは、子どもたちみんなの名前を覚えていてくれる優しい人でした。私は毎日のように、母からもらった100円玉を握りしめ、姉や友達と連れ立っておばあさんの駄菓子屋へ。「今日はどれにしようかな」「“当たり”が出るかな」とワクワクしながら選ぶのが、最高の楽しみでした。
当時、私には「タム」という親友がいて、学校から帰るとランドセルを放り出し、2人でよく “冒険“に出掛けました。持ち物は水筒を入れたリュックサックと100円玉が1つだけ。行き先は決めず、最寄り駅から1駅か2駅くらいの道のりを、ひたすら歩くのです。日も暮れかけたころ、見知らぬ街にいることが急に心細くなり、家が恋しくなってくると、どちらからともなく「帰ろうか」と来た道を引き返します。いつもの街並みと、顔なじみのおばあさんの駄菓子屋が見えてくると、ほっと一安心。持っていた100円玉でお菓子を買い、公園のベンチでタムと並んで食べると、おなかも気持ちも落ち着いてきます。あの時の何とも言えない安心感と、「早く家に帰りたいな」という切なさとが入り交じった気持ちは忘れられません。
何げない日常がかけがえのない宝物
いま、私の隣でお菓子をほおばっている娘は小学2年生。私と同じく食べることが好きな彼女は作ることにも興味津々で、時には並んでキッチンに立ち、カスタードプリンやホットケーキ、ベイクドチョコなど、親子で簡単なおやつ作りを楽しんでいます。また、テストでがんばったときなどは、ご褒美に近所のお菓子屋さんへ連れて行きます。色とりどりのお菓子がたくさん並ぶお店は、子どもにとっては夢のよう。かごを持たせて「好きなのを選んでいいよ」と言っても、あれもこれもと欲張らず、「今日はこれを買うから、こっちはガマンしようかな……」と幼いなりに考えながら、真剣にお菓子を選ぶ娘の姿に、あのころの自分が重なります。
ソファに座って一緒に3時のおやつを食べながら、横目で娘の様子をうかがい「今日も元気だな」とほっとする。何げない日常が、いまの私にはかけがえのない宝物に思えます。母もこんな気持ちだったのかな、彼女もいずれ友達と、私の知らない冒険に出掛けるのかもしれない。そんなことを思いながら、今日も娘とお菓子を奪い合い、幸せな時間を分け合っています。
2019-06-28