ガムとともに噛みしめた勝利の味元女子プロサッカー選手 海堀あゆみさん
こんにちは。元なでしこジャパン、ゴールキーパーの海堀あゆみです。
私はいま、佐賀県みやき町のスポーツ政策ディレクターという職に就き、現地でU-15女子サッカークラブチームの創設に携わるなど、スポーツを通じた「まちづくり」に興味をもって取り組んでいます。若い選手たちと接する機会も増えたので、ぜひ自分の経験も伝えられたらと思っています。いくつか切り口はありますが、「食育」もそのひとつとなりそうです。
なでしこジャパンの一員だったころ。海外遠征の食事は、滞在先のホテルで用意してくださるビュッフェになることが多かったです。男子チームのように、帯同する専属のシェフがいなかったので。そのため、必ずしもすべてにこだわった食事ができるとは限りません。私の場合は、最低限摂取する栄養のベースを決めておき、体の状態も考慮しつつ、その時々で食べたいものを選ぶようにしていました。
食事のとり方に気を使う一方で、食後のデザートやお菓子は遠征中の何よりの楽しみでした。日本にいる時以上に、海外ではお菓子が食べたくなるんです。たぶん、いつもと違う環境とプレッシャーの中にいて、自分でも意識しないうちに疲労がたまり、それで甘いものが欲しくなるのでしょう。なので、必ず日本から袋入りのチョコレートやおせんべいなどを持っていくんです。ハードな一日が終わって一息ついた時に、みんなでカフェタイムをして楽しんでいました。日本が恋しくなるのか、食べ慣れたチョコレートの味には癒やされました。
そうそう、なでしこジャパンのお菓子好きは、阪口夢穂選手と鮫島 彩選手。二人の部屋には、お菓子のストックがどっさりあって、お裾分けしてもらいに行ってたな(笑)。お菓子づくりが上手だったのは、川澄奈穂美選手です。INAC神戸レオネッサで一緒にプレーしていた時のこと。試合前、彼女がみんなのためにクッキーを焼いてきてくれたのは、いい思い出です。ありがとう。
試合直前、ガムがない!
サッカーのプレー中、私にとってガムは手放せないものでした。さわやかなミント系の粒ガムが好きで、練習中も試合中もずっと噛んでいました。
ゴールキーパーだった私は、フィールドプレーヤーが攻撃に参加している時、ゴール前から戦況を観察しながら、攻守が入れ替わる次の展開に備えます。とはいえ、味方の攻撃時間が長いと、気持ちが途切れそうになることも。でも、リズミカルにガムを噛んでいると、ゲームに集中できる感じがしていました。
また、勇猛果敢にボールに飛び込んでいくのが、ゴールキーパーの“仕事”です。ダイビングやジャンピングの瞬間は、口の中ではぐっと力を入れて、奥歯を噛みしめます。この時、ガムを噛んでいると、クッションになって歯を守ってくれるのではないか、と思っていました。マウスガードをつける選手もいますが、ひんぱんに指示出しや声掛けをする私は、声が出しづらくなるマウスガードは苦手で。そんなところも、ガムが好きな理由です。
ある時、試合前の慌ただしさから、ガムを忘れて円陣へ。いよいよ試合が始まる直前、そのことに気づいて、チームメートに「ごめん、急いでガム持ってきて!」とお願いしたことがありました。ガムを噛むことは、私の数少ないルーティンでした。2011年のFIFA女子ワールドカップドイツ大会、PK戦までもつれたあの決勝戦でも、ガムのお世話になっていました。
思えば今年で、11年ドイツ大会での優勝から10年、15年カナダ大会での準優勝から6年が経ちます。最近よく、カナダ大会後に宮間あや選手が「女子サッカーを文化に」と発言したことを思い返しています。現在の自分の取り組みになぞらえて、みやき町で立ち上げたチームが地域に愛され、町の皆さんにどんな貢献ができ、どうしたら文化として根を下ろすことができるのか、と考える毎日です。私を育ててくれたサッカーやスポーツへの恩返しの気持ちとともに、こうした思いを噛みしめて活動しています。
2021-03-30
おすすめの記事
- インタビューうれしい話
夢に突き動かされて今がある。新しい挑戦を続ける 女子プロサッカー 川澄奈穂美選手
- おいしい読みものお菓子の切手
騎士団の島の伝統菓子
- お菓子の履歴書世界の郷土菓子を巡る旅
ウェルシュケーキ〔イギリス〕シンプルで潔い“引き算”の伝統菓子
- インタビュー創る ~お菓子を彩るクリエーター~
一粒のチョコレートと日本のクラフト酒の妙 新ブランド「YOIYO」誕生秘話 マルス信州蒸溜所 河上國洋さん×ロッテ マーケティング部 商品企画課 田中麻紀子
- おいしい読みものエッセイ My Sweet Story
青春を懸けるアスリートにチョコを贈る 元サッカー日本代表・プロサッカー選手 中澤佑二