青春を懸けるアスリートにチョコを贈る元サッカー日本代表・プロサッカー選手 中澤佑二
2018年シーズンを最後に現役引退し、早いもので1年以上が過ぎました。僕は今、女子ラクロス部でコーチを務めています。きっかけは、2人の子どもがラクロスに熱中していて、興味を持ったからです。ラクロスはパスにスピード感があって、どんどん点も入るし、攻守の展開が速くて面白い。そんなところに、すっかり魅了されました。現在は、ラクロスの普及活動にも、情熱を傾けているところです。
ラクロス部では技術的なことも大切なのですが、体の使い方やトレーニングの仕方、食生活なども並行して指導しています。ただ、食事に関しては、あんまり言うことを聞いてくれませんね(笑)。お年ごろの女の子たちですから、スタイルのことを気にして食事を抜いたり、軽く済ませてしまったり逆に食べ過ぎたりするみたいで……。いやいや、三食きちんと、バランスよく食べてこそ、前日の疲労を残さず練習に臨めるものだよ――なんて話をするんですが、なかなか大変。彼女たちはプロではないので、そこまで強く言う必要もないかも知れないのですが……。
それにしても、みんな、お菓子やケーキは大好きですね。差し入れにはよくチョコレート系のものを持っていくのですが、途端に集まってきて、いつも以上に会話が弾みます(笑)。お菓子を配るときだけ、ヒーローってわけではないんだけどね(笑)。冗談はさておいて、チョコレートを選ぶのには、理由があります。僕自身が現役時代、チョコレートに含まれるポリフェノールの働きについて勉強して以来、少量ではありますが毎日チョコレートを食べていたからです。そんなふうに自分の経験も伝えながら、プロのサッカーの世界とはまた違った、ラクロスに関わる人生を楽しんでいます。
ブラジルの子どもたちと心を通わせて
チョコレートには印象深い思い出もあります。高校を卒業し、ブラジルへサッカー留学をしていたときのこと。当時は、ハングリー精神にあふれた同世代の選手たちと一緒に、かつて経験したことのなかったハードな練習、試合の日々でした。そして、チームメートを蹴落としてでも、自分をアピールしなければならない厳しい世界。初めのうちは言葉にも不慣れで、心身ともにきつかった。それでも、将来はプロになるんだとサッカーに懸けていました。
日本から何人かの留学生がいましたが、その厳しさゆえ、半年後に残ったのは僕1人でした。そのとき、心の支えだったのが近所の子どもたち。下は4歳とか5歳、上は15歳で、10人くらいいたかな。クラブの練習が終わった午後2時から、夕飯の前くらいまで、みんなとはよく、鬼ごっこやかくれんぼ、サッカーをして遊んだものです。ポルトガル語も教わりました。
そんなある日。子どもの1人から「こっちにおいで」と言われ、彼の家に連れていかれました。そこで待っていたのが、遊び仲間の子どもたちと、手作りのチョコレートケーキ。その日は、2月25日。慌ただしい毎日で忘れていましたが、僕の19回目の誕生日でした。でも、みんなは覚えていてくれて、お父さんやお母さんに手伝ってもらいながら、チョコレートケーキを作ったそうです。19本はなかったけれどロウソクも立ててあり、ポルトガル語でハッピーバースデーの歌も歌ってくれて。その心遣いがうれしかったです。
チョコレートの記憶をたどるうちに、プロサッカー選手を目指してあがいていた青春時代のことを少し思い出しました。
2020-07-21