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2013年にベルギーが発行した切手シート。チョコレートの味と香りがついている。上段左からスプリンクル、製菓用ブロック、ハート形のプラリーヌ。下段左はパンに塗られたチョコレートスプレッド、右は板チョコレート

ヨーロッパ諸国の中で、チョコレートが重要な輸出産業となっている国は、大抵、自国のチョコレートを広く諸外国に宣伝するための切手を発行しています。数多くのチョコレート工房を有するベルギーの場合も例外ではなく、過去にも何度かチョコレートを題材にした切手を発行しています。そのなかでも、2013年に発行された5種セットの切手シートは、こだわりの一品として話題になりました。

切手シートには、溶けたチョコレートがしたたり落ちる背景の中に、スプリンクル、製菓用のブロック、ハート形のプラリーヌ、パンに塗られたチョコレートスプレッド、板チョコレートが取り上げられています。

このうち、スプリンクルは、チョコレートを細い麺状に絞り出して冷やし、回転釜で粉砕して細かい棒状にしたもので、日本ではチョコレートスプレーとも呼ばれます。スプリンクルは「ふりかけ」、スプレーは「しぶき」という意味です。アイスクリームやクッキー、縁日のチョコバナナなどのトッピングに使われるのは、カラフルなものが主流ですが、この切手では、チョコレートそのものを見せるため、着色されていない状態で描かれています。

また、プラリーヌは、一口サイズで、中にクリームやリキュール、アーモンドと砂糖をペースト状にしたマジパンなどを詰めたものです。もともとは、1912年にベルギーの薬剤師、ジャン・ノイハウス氏が、ナッツ類に飴(あめ)をからませ、ペースト状にしたものをチョコレートの中に包み込んだのが始まりとされています。ベルギーでは欠かせないチョコレートといえましょう。

実は、この切手シートには、ダークチョコレートの味と香りがつけられています。裏面の、のりの部分にカカオエキスが含まれていて、舐(な)めるとチョコレートの味がします。さらに印刷用のインクには香料が混ぜられているので、香りも楽しめるのです。

チョコレートの香りがついた切手には先例がいくつもありますが、この切手シートは、よりリアルな香味を再現するため、ベルギー国内のみならず、ドイツ、オランダ、スイスなどの専門家を集めて仕上げています。これまでの香り付き切手よりもはるかに完成度の高い一枚となりました。

季刊広報誌「Shall we Lotte」第33号(2016年秋)より転載

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)ほか。
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