南大西洋の孤島から大盛りで届く贈り物
欧州での戦争に敗れた皇帝ナポレオンが晩年を過ごしたセントヘレナ島は、南大西洋に浮かぶ孤島で、最も近い陸地となるアフリカ大陸西岸まで2800キロメートルも離れています。この距離は、およそ北海道から沖縄間に相当します。1502年にポルトガルの航海家ジョアン・ダ・ノーヴァが発見し、1834年にはイギリスの王領直轄地となりました。
2009年9月以降、行政上は南大西洋上のアセンション島、トリスタン・ダ・クーニャと共に、イギリスの海外領土「セントヘレナ・アセンションおよびトリスタン・ダ・クーニャ」を構成していますが、切手は「セントヘレナ」単独名義で発行しています。
1998年発行の切手は、島の工芸品を取り上げた4種セットです。そのうち20ペンス切手には、伝統的なろくろ工芸で作られた木の器に、たくさん盛られたキャンディとクルミが描かれています。
セントヘレナ島にはコーヒー以外に輸出産業はなく、自給自足の小規模農業や漁業、手工業が細々と行われていますが、それだけで島民の生活を支えるのは難しく、食料をはじめ多くの生活物資はイギリス本国や南アフリカからの輸入に頼らざるをえません。
近く、島で最初の空港が開港し、ヨハネスブルク(南アフリカ)との間で、旅客機の運行が始まる予定があるとはいえ(※)、島外からの主立った定期的な交通手段は船です。しかも、ケープタウン(南アフリカ)からの船便が年間12便、アセンション島からは年間14便と限られています。そのため、品物が入荷すると、外国人向けのホテルやレストランなどが高値で買い占めてしまうこともあり、島民は慢性的なモノ不足に悩まされているようです。
こうした状況ですから、伝統的な木の器に、あふれるほどのキャンディとクルミが盛り付けられた切手には、島民の憧れが込められているのかもしれません。切手の主役は木の器のはずなのに、デザイン上はカラフルなキャンディがひときわ目をひきます。
※セントヘレナ空港は2017年10月に開港しました。
季刊広報誌「Shall we Lotte」第31号(2016年春)より転載
2019-10-23