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香港が2015年に発行した“心思心意”の切手のうち、ロリポップ・キャンディを取り上げた1枚。
この年の切手はほかに、ハートをモチーフにしたケーキ、目玉焼きをのせたトースト、四つ葉のクローバー、風船、写真フレームが題材となっている。

香港では、2003年から不定期で、心温まるという意味合いの“心思心意”と題するグリーティング切手を発行しています。このうち、2015年2月に発行された6種セットの切手は、さまざまなグッズをハート形にデザインしていますが、その中の1枚に鮮やかな渦巻き模様のロリポップ・キャンディが取り上げられました。現地では棒棒糖(ターン ターン トーン)と呼ばれていて、キャンディの色つきの部分は盛り上げ印刷になっており、立体感があります。

もともと香港では、春節のギフトとして、キャンディを箱に詰めて贈るという習慣がありました。これは、甘いキャンディが新年の幸運を象徴するものとされていたためです。ただし、春節に贈られるキャンディは、この切手のような派手な色彩のものとは異なり、眼鏡形の容器に入った「眼鏡糖」(ネン ゲーン トーン)、ダイヤモンドの指輪をかたどった「戒指糖」(ゲージー トーン)、生姜と砂糖、麦芽糖などで作られた昔ながらの「叮叮糖」(ディン ディン トーン)、ココナッツ・キャンディの「椰子糖」(イェー ジー トーン)などが主でした。このうち、眼鏡糖や戒指糖は1980年代ごろまで、幼稚園から小学校低学年くらいの男の子が、お気に入りの女の子に渡す定番のプレゼントとして使われていました。

現在では、春節のギフトとしてキャンディを贈る人は徐々に減少傾向にあるものの、香港で生まれ育った人々の生活の中で、今なお、キャンディは縁起物としてのイメージがあることに変わりはありません。

ところで、年によってバラつきはありますが、春節は2月の上旬から中旬過ぎまでのことが多く、時期的にはまさにバレンタインシーズンと重なります。旧宗主国のイギリス同様、香港のバレンタインデーも、男女問わず、花やケーキ、カードなどのギフトを、恋人や親しい人に贈ります。もちろん、チョコレートを贈る人もいます。ロリポップ・キャンディが“心思心意”の切手に取り上げられていることから考えると、春節のギフトを兼ねて、キャンディを贈る人も少なくないのかもしれませんね。

季刊広報誌「Shall we Lotte」第35号(2017年春)より転載

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『外国切手に描かれた日本』(光文社新書)ほか。
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