多様性ってなんで大事なの?
固有種の教室:第1回目
「多様性のススメ」レポート(渋谷区立千駄谷小学校)


多様性ってなんだかおおきな話で、あまり実感がわかない。
多様性が大事なことはなんとなくわかるけど、僕らはどうすればいいの?
よく聞くけど実は掴みどころのない「多様性」について
みんなで楽しく考えていきましょう。
ロッテが展開する「固有種のマーチプロジェクト」の一環として、渋谷区立千駄谷小学校で「固有種の教室」がスタートしました。
固有種って何?聞き慣れない言葉だなと思う方もいらっしゃるでしょう。固有種とは、特定の国や地域にしかいない生き物のことです。
チョコレートのお菓子の「コアラのマーチ」のコアラも固有種の一種です。このプロジェクトは、世界中にいる愛らしい固有種たちを通して、人も動物も植物も、みんながそれぞれ「個性」を持つすばらしさと、「多様性」とはどういうことなのか?に目を向けてもらうきっかけを作りたい、という思いでスタートしました。
この記事では第1回目の様子をレポート。全3回の記事はこちらのリンクからもお読みいただけます。
・【第1回目】多様性のススメ:ゲームと授業で学ぶ、進化と生物多様性※本記事です
・【第2回目】多様性のカンサツ:地域をカンサツして街の多様性マップを作ろう
・【第3回目】多様性のシテン:自分を再発見!人間社会の多様性について考えよう

イベント概要:渋谷区立千駄谷小学校での「固有種の教室」第1回
第1回目は「多様性のススメ 〜ゲームと授業で学ぶ、進化と生物多様性〜」と題して、ワークショップと講義を開催しました。
時間になると千駄谷小学校の6年生の2クラスの児童たちが体育館に集まってきました。「コアラのマーチ知ってるよ!」「ガーナのチョコレートもあるんだ」とロッテのお菓子についても嬉しいリアクションが。固有種のマーチプロジェクトについて紹介した後は、今回のプログラムとなる「進化体験ゲーム」のワークショップに取り組みました。
1コマ目:進化体験ゲーム【1-1】
まず1コマ目に行われたのは、進化をテーマにしたワークショップ・進化体験ゲームです。4~5人のグループに分かれ、いきものの絵を使った伝言ゲームを通して、進化や適応について体験します。
ゲームの事前準備として、頭・上半身・下半身のカード3枚を組み合わせて、架空のいきもの1種を作ります。

進化体験ゲームのために用意されたカードセット
合図とともに各グループのトップバッターが集まって、いきものの姿を目に焼き付けます。みんな真剣そのもの!

先程目に焼き付けたいきものを、記憶を頼りに描いていきます。


さらに、自分で描いたいきものの特徴を文字で箇条書きにします。ここでのルールは、動物や他の何かに例えてはいけません。(“象のような鼻”などの表現はNG)
「うろこのある胴体だったかな?」「しっぽが長かったかも」など、悩みながらも紙に書き出します。

トップバッターから2番目の人には、文字情報だけを見せていきものの特徴を伝えます。つまりこの文字情報の要素が遺伝されていく特徴になるわけです。

2番目の人は、その文字情報を頼りにいきものの姿を想像して描きます。トップバッターが描いた絵を見ることはできません。
「そこは角があって...!」「あ、ちょっと違うよ!」とついアドバイスしたくなる気持ちをぐっとこらえます。

2番目の人は絵を描いたら、またその絵をもとに特徴を文字情報として紙に書き出します。
これを繰り返し、3番目、4番目へと伝言ゲームのように伝えていきます。
最後の人に伝わるいきものは、どんな変化を遂げているでしょう?

アンカーの周りにはチームメイトが集まって応援!
最後にどんないきものが描き出されるのか、みんな興味津々です。

最初は絵を描き、次に特徴を文字にする、その文字情報からいきものを想像して次の人が絵描くという方法で、描き伝えられる間に少しずつ変化が加わっていくのがポイントです。
勝ち、負けはありません。チームごとにどのような変化を遂げていくのか、見比べて、変化の幅広さそのものが発見となります。
「ここで全然違ういきものになってる!」「最後はうろこが無くなった」などチームごとにまったく異なるいきものに変化していることが分かります。

1番目の人から、最後の人へ、世代を経るごとに生じる変化。その変化は、伝達のあいだで起こるコピーエラーによって、多種多様に広がっていきます。この変化は生物の“進化”と捉えることができます。この進化体験ゲームの醍醐味は、遺伝子(ゲームでいえば、文字で伝える情報)の伝達ミス(コピーエラー)や環境の変化が進化に影響を与え、結果的に異なる種が生まれるプロセスを楽しみながら学べること。
2コマ目:五箇公一先生の授業「進化のしくみと多様性」【1-2】
続く2コマ目には、国立環境研究所の五箇公一先生による授業が行われました。サングラスに黒いジャケットの五箇先生が登場!
<五箇公一さんプロフィール>
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国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター室長。
1965年、富山県高岡市出身。京大大学院農学研究科昆虫学専攻修士課程修了。大手総合化学メーカーで殺虫剤の研究開発に携わり、博士号を取得。1996年に国立環境研究所に転じる。専門は保全生態学、農薬科学、外来種対策で、現在は生物多様性領域(生態リスク評価・対策研究室)室長として、強毒を持つ南米原産のヒアリなど外来種の対策を研究。自治体や国の政策立案に携わる一方、テレビ番組や講演を通じて、環境科学の普及に尽力している。
授業では「進化のしくみと多様性」をテーマに、進化の基本的なプロセスや生物多様性など、土台となる知識を深める時間となりました。
私たちが生きるために必要な、現在の生態系や生物多様性は38億年の進化の賜物であること。地球の誕生から今の生活に至るまで、斬新なプレゼンテーションと軽快なトークに児童たちも引き込まれます。

ワークショップでも体験したように、遺伝子のコピーエラーによって種の多様性が生まれ、種の多様性は生態系の多様性に、生態系は景観の多様性を支えます。そして景観の多様性がさまざまな社会と文化と芸術を生み出してきました。
生態系は様々なサービスを提供します。きれいな空気や水、おいしい食べ物だけでなく、自然災害の抑制や、美しく心癒される景色もサービスの一つです。
特に日本の里山・里海は、生物多様性の宝庫とも言われています。しかし、現状は里山のような生物多様性豊かな環境はだんだんと減っています。
都市部の生活は地方で作ったエネルギーに頼り、食べるものの多くは海外からの輸入に支えられています。行き過ぎたグローバリゼーションは、一次産業に深刻な影響を与えるだけでなく、外来生物の侵入という点でも、国内の生物や人間にも脅威をもたらします。
こうした現実をまっすぐに伝えながら、人間社会を支える生態系サービスと、それを提供する生物多様性の保全は、重要な課題であり人間社会持続の安全保障であることをお話しされました。「動物が可愛いから、かわいそうだからやるんじゃない。自分たち人間のためなんですよ」と強調します。加えて、私たちが今できることの一つとして「地産地消」というキーワードを挙げています。
改めて自分たちの暮らす地域環境に注目し、解決の糸口を探ることが示されました。

ここ東京には少しも生物多様性が無いのでしょうか?今この場所で、私たちにできること。それは、自分たちの生きる場所で多様性を見出し、共有しあい、大切に感じるきっかけを作ることだと考えました。
地域の多様性に目を向けると、そこには大きな課題ゆえに捉えづらかった生物多様性のヒントが隠れています。

第2回目の「固有種の教室」に向けて、課題カードが配られました。
千駄谷小学校に通う児童の視点から、地域の「仕事」「遊び」「植物」「景色」「動物」を見つけて、観察し、カードに特徴を書き込んでもらいます。
第2回目の教室では、このカードを集めて千駄ヶ谷の多様性マップを作るワークショップを開催!次回レポートもぜひご注目ください。
児童たちの感想
・人それぞれに多様性があることが分かった。(LGBTQ授業と関係していると思った)お絵描きリレーをして、人それぞれに感じ方があることを知って面白かった。
・ 絶滅を人間が救うのでなく、人間のためにやっていることが心に響いた。
・日本は海外からの輸入に頼っていることが多いので海外に頼り過ぎないような社会にしていくことも大切だと思いました。
・進化や固有種など動物のことから社会問題など様々な分野のことを分かりやすく説明してもらって、最初にやった伝言ゲームで進化のことを実感しました。DNAなどのよく聞くけれど、よくわからない言葉が分かって、ためになったなと思いました。
・固有種を守るということと人間社会の存続と関連があることを初めて知りました。
・環境問題を解決することは、ほかの生き物や人間自身に有益なことなのでなるべく早く取り組むことが必要だと思いました。
児童たちは、五箇先生のお話に熱心に耳を傾け、多くの発見があったようです。また、感想からも進化や多様性への関心が深まったことが伺えます。

次回の予告
第2回目のテーマは「多様性のカンサツ」。児童たちは地元の千駄ヶ谷エリアにある多様な生物や環境を観察し、「多様性マップ」を作成します。身近な自然にある多様性を知ることで、自分たちの生活と自然の繋がりをさらに深めてもらいます。第2回〜3回のレポートはリンクからご覧いただけます。
第2回レポート>多様性のカンサツ:地域をカンサツして街の多様性マップを作ろう
第3回レポート>多様性のシテン:自分を再発見!人間社会の多様性について考えよう