みんなのエッセンスを見つけよう!
固有種の教室:第3回目
「多様性のシテン」レポート(渋谷区立千駄谷小学校)

多様性ってなんだかおおきな話で、あまり実感がわかない。
多様性が大事なことはなんとなくわかるけど、僕らはどうすればいいの?
よく聞くけど実は掴みどころのない「多様性」について
みんなで楽しく考えていきましょう。
ロッテが展開する「固有種のマーチプロジェクト」の一環として、渋谷区立千駄谷小学校で「固有種の教室」を実施しました。固有種って何?聞き慣れない言葉だなと思う方もいらっしゃるでしょう。
固有種とは、特定の国や地域にしかいない生き物のことです。
世界中にいる愛らしい固有種たちを通して、人も動物も植物も、みんながそれぞれ「個性」を持つすばらしさと、「多様性」とはどういうことなのか?に目を向けてもらうきっかけを作りたい、という思いでスタートしました。
この記事では第2回目の様子をレポート。全3回の記事はこちらのリンクからもお読みいただけます。
・【第1回目】多様性のススメ:ゲームと授業で学ぶ、進化と生物多様性
・【第2回目】多様性のカンサツ:地域をカンサツして街の多様性マップを作ろう性
・【第3回目】多様性のシテン:自分を再発見!人間社会の多様性について考えよう※本記事です
イベント概要:渋谷区立千駄谷小学校での「固有種の教室」第3回
第3回目は「多様性のシテン〜自分を再発見!人間社会の多様性について考えよう〜」と題して、講義とワークショップを開催しました。
第1回目の「多様性のススメ」に登壇した五箇公一先生が再登場!人間社会の多様性についての講演の後、グループに分かれてワークショップ「見つけよう!キラリと光る私の固有性」を開催。自分以外の人に、自分の良いところを見つけてもらうワークショップを通して、みんなで自分やお友達のエッセンスを抽出しました。
1コマ目:人間社会の多様性について考えよう!【3-1】

1コマ目は五箇公一先生の講義から。まずは先生の専門分野であるダニに関する、興味深いエピソードが紹介されると児童たちもグイグイと引き込まれます。冒頭で「クワガタナカセ」と呼ばれるダニと、クワガタの共進化に焦点があてられました。
アジア中のクワガタとダニのDNAを調べたという先生。クワガタが地域ごとにさまざまな遺伝子を持っていることは想像の通りですが、驚いたことに、ダニの方も寄生するクワガタムシごとに遺伝的に分化が進んでいることがわかっています。これを共進化と呼び、その歴史は1,200 万年を超えると言われています。

ちなみに、クワガタナカセという名前に反して、実はクワガタにとってはからだを掃除してくれる嬉しい存在です。クワガタの愛好家からすると取り除いておきたい、嫌な存在かもしれません。しかしクワガタの背中でしか生きられないダニにとってはもちろん、クワガタにとって大切なパートナーであることが伺えます。

自然界では、強いものが生き残るというイメージがあるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。私達をふくめた生き物は、遺伝子の乗り物と言えます。自らのコピーを残すためには、同じものを増やす方が効率的ですが、環境の変化に耐えるバリエーションがなく、かえって絶滅のリスクが高まります。

ダニは4億年ものあいだ遺伝子を残し、対して人類はわずか4万年です。人間は種として弱い存在です。しかしながら、脳が発達したことで優れたコミュニケーションが生まれ、社会を作り、助け合うことで生き残ってきました。
人間社会にとって差別やいじめをする人は、優れた強い存在なのでしょうか?人間はみんな弱く、差別やいじめのような「動物的な排他主義は多様性の否定だ」と、先生は伝えます。

また、人間社会における生産性とは何か?という問いに「文化の創造性は、人間の偉大な生産物」だと語ります。人間社会の存続のために、「遺伝子・種・社会の多様性」と、個性や個人を大切にするヒューマニティーがますます大切だと強調されました。

2コマ目:自分のエッセンスを探そう【3-2】
続く2コマ目に行われたのは、宿題の「自分のエッセンスを探そう」のワークショップです。宿題で準備したシートをグループ内で発表します。


自分の性格、得意なことや興味があること、逆に苦手なことや嫌なこと、将来の夢といった項目が用意されています。5つの質問に、3つ以上のキーワードを集めます。
最後に自分を他の生き物に例えるなら何?それはなぜ?という質問も。難しいと感じる項目は家族やお友達に相談して書いてもらいました。


ワークショップでは、グループごとにそれぞれが宿題で考えてきたエッセンスを盛り込みながら自己紹介をしました。他メンバーはインタビューでエッセンスを掘り下げ、互いの魅力を再発見。最終的にきらりと光る個性を見つけ、互いにキャッチコピーをつけ合うことをしました。

「なぜ」それが好きなのか?
「なぜ」興味があるのか?
「なぜ」そう思うのか?
を話している人に聞いてみると、きっとその人の良いところが見えてくるはず。

聞いた内容をメモする様子も
「スポーツはどんなきっかけで始めたの?」
「動物に例えるのが難しかった」「いつも堂々としてるからライオンはどう?」
「読書は好きだけど、他のことは飽きっぽくて、悪いところだと思う」「飽き性は悪いことばっかりじゃないよね!」

今まで自分で気づかなかったわたしのエッセンスは見つかるのでしょうか?

各グループから代表して、全員の前でみんなからつけてもらったキャッチコピーを発表してもらいました。
「ゲームを愛し、ゲームに愛された人」
「歌えるパティシエ」
「戦国の男」
ポイントは自分自身でキャッチコピーをつけるのではなく、他のメンバーからつけてもらうという点。「戦国の男」は、歴史について詳しく、よく教えてくれるからという理由で同級生がつけてくれたもの。自分では気づかなくとも、他人からみたら魅力的な個性に映ることもあります。
また、自分がマイナスだと思っていたところが、みんなと話して“良いところ”に浮かび上がった、という声も。

全3回の終わりに、「固有種のマーチ・オーストラリア編」をプレゼント!オーストラリアにしかいない固有種について遊んで学べる大きなコアラのマーチです。


児童たちの感想
・ダニやウイルスなども生物多様性をつくっている大切なものだと知りました。もちろん人も、それぞれ個性があって世界に1人だけの大切なものだということに気づきました。
・自分では分からない自分の良いところが知れて、人と話すコミニケションは大事だなと思いました。
・多様性の大切さがよく分かりました。ダニにも、個性があって面白かったです。どんな時も自分の個性、相手の個性を認め、それを尊重することを忘れないようにしようと思いました。
・人のキャッチコピーを書く授業が楽しかったです!他の人の好きなところや性格をもっと知ることができてより仲が深まりました。
・虫や魚なども「気持ち悪い」とか「嫌い」だけでなく、見方を変えることによって、その生物の個性があるんだな、という新しい見方や考えができるようになりました。
40億年のなかで築き上げた生物多様性。あらゆる生き物が相互に関係しあいながら長い時間をかけて育んだ豊かな環境。このすばらしい贈り物を未来につなげていけるかは、大人も子供も私たちみんなで取り組む宿題です。
<「固有種の教室」全3回の授業を終えて>
西尾真記子先生(渋谷区立千駄谷小学校 教員 )
“多様性”をテーマにした「固有種の教室」での学びが、知識を得るだけの学びで終わらず、最終的には自分自身のこととしてこの学びを捉えることができ、他人と比較することで自分の存在を確認するのではなく、自分自身の良さを自ら受けとめ、認めてあげられるようになってほしいという思いがありました。
全6時間3回計画で、第1回目は、「進化と多様性」について知る時間、2回目は、児童が住む身近な地域の多様性を調べ、多様性を様々な方向から捉え考えを共有する時間、3回目は、自分自身と友達からのコメントから、自分自身も多様性の中の素敵な個性をもつ一人ということを、再発見できた時間でした。
今回の学びを通して、児童は、自分自身の良さを再発見することができただけでなく、他の人の存在も、多様性の中で大切な個性をもつ大切にされるべき存在だということを知ることができたと思います。今回の学びが、日常生活にダイレクトに繋がり、この先の子供たちの人生で活き続けると願っています。
特別講師 五箇公一先生
(国立環境研究所 生物多様性領域 生態リスク評価・対策研究室 室長)
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五箇公一さん(特別講師) 生物多様性というのは非常に重要な環境キーワードですが、その中身に対する理解はまだまだ社会には十分に浸透していません。あらゆる遺伝子があって、種がいて、いろんな生態系があることで、地球環境の安定が保たれています。人間社会も同様で、あらゆる才能や個性を持つ人たちが集まることで、文化が育まれ社会は常に発展し、持続性という観点からも安心安全な社会を作ることに繋がっていきます。
生物多様性という生き物の多様性の世界から人間社会を俯瞰し、個性の大切さ、個性を尊重するという人間ならではの精神=ヒューマニティ、そういったものをこの授業を通じて学んでいただけたらと期待していましたが、児童たちの授業の感想を拝見し、その理解力や感受性に深く感心いたしました。
さらに子供たちと一緒に聞いてくださる先生たちにも、ぜひ多様性の意味や大切さ、そして同時に面白さを感じていただけたら幸いです。
自然環境だけでなく、人の個性も、多様性の大事なエッセンス。「多様性ってなんだか大きな話で、あまり実感がわかない」という人も多いかもしれません。人も動物も植物も、みんながそれぞれ「個性」を持つすばらしさが、すこしでも手ざわりのある実感に変わることを願っています。そして、今回の学びが日常生活や地域の中で広がっていく出発点になったとすれば、とても嬉しく思います。

第1回~2回のレポートはリンクからご覧いただけます。
第1回レポート>多様性のススメ:ゲームと授業で学ぶ、進化と生物多様性
第2回レポート>多様性のカンサツ:地域をカンサツして街の多様性マップを作ろう