セカンドハーベスト・ジャパン「すべての人に、食べ物を。」 フードセーフティネットを構築する
「ロッテと学ぼうSDGs」2回目は、日本初のフードバンクで、今年創設20周年を迎えたセカンドハーベスト・ジャパンを訪ねました。企業などから寄付された食品を、必要とする人に無償で届ける活動を展開しています。そのビジョンは「すべての人に、食べ物を。」。こうした社会貢献活動のいわば〝心臓部〟、フードバンク部を支える坂本瑶子さんにお話を聞きました。
企業などで余剰になった食品を必要な人に届ける
—— この活動を始めたいきさつを教えてください。
坂本瑶子さん 「創立者でCEOのマクジルトン・チャールズはアメリカ人ですが、東京・台東区の山谷の修道院に寄宿していた時期にホームレスの人たちを対象にした炊き出し活動に参加していました。その経験が原点となり、これからは日本社会に恩返しをしたいということで、食事に困ったときに支えとなる、誰でもアクセスできるフードセーフティネットの構築を目指して、2002年にセカンドハーベスト・ジャパンを設立しました」
—— 活動は、四つのプログラムから成っていますね。
坂本さん 「一つはフードバンクです。食品のメーカー・輸入業者・流通業者、農業生産法人などから寄付していただいた食品を、管理する部門です。商品のリニューアルや生産過剰などで在庫になった商品など、未利用の余剰食品を寄付していただいています。とはいえ、ラベルの印字ミス、パッケージの傷みなどの程度によっては、法令への適合性や安全性の観点、また受け取る方のお気持ちにも配慮して、お断りすることもあります。ご提案いただく食品は極力活用させていただきますが、それはあくまでも必要な食品の調達のための一つの手段で、食品ロスをなくすことを目的とはしていません。企業からのいわばチャリティーとして寄付された食品もかなりあります。
最近では、個人の寄付も増えました。段ボールに詰めて送ってくださる方や、企業などが主催して家庭にある余剰食品を集める『フードドライブ』の形もさかんです。俳優のディーン・フジオカさんもファンクラブにフードドライブを呼びかけて、私たちに食品を寄付してくださる活動されています。
企業、個人ともに私たちの活動に興味を持ってくださる方が増えたきっかけの一つとして、2011年の東日本大震災があります。あのときは私たちもすぐさま現地に向かったのですが、食品を困った人に届けるという活動への理解が進みました。震災の前は食品を寄付してくださる企業・団体が約300社でしたが、10年後の昨年末には7倍の2258社に増えました。食品会社以外でも、災害用に備蓄してあった非常食が切り替えの時期になるということで、賞味期限に余裕のあるものを寄付してくださる企業や自治体もあります。
大事なのは保管です。寄付いただいた大切な食品を、安全に利用者の皆さんに届ける責任があります。東京都と埼玉県の倉庫に備えた大きな冷蔵庫や冷凍庫はIT化されていて24時間温度データがクラウドにあげられ、問題が生じたら即応できるシステムになっています。食品情報はQRコードで管理しており、「寄贈品管理システム」によって在庫状況も逐一把握できています。これによって、現在3か所ある倉庫それぞれの在庫量のコントロールや、食品を提供したルートの追跡が可能で。このようなシステムの導入によって、寄付いただいた食品を余すことなく活用しております。加えて、すぐに入手が難しいものは、寄付食品を待つのではなく、私たちが購入することもあります」
—— 温かい食事を提供しています。
坂本さん 「二つ目がセントラルキッチンです。調理をした温かい食事を提供するのが私たちの原点で、今も続けています。毎週土曜日に上野公園で活動しており、新型コロナウイルスが感染拡大する前は厨房(ちゅうぼう)で調理したものを配っていたのですが、今は150~250食のお弁当を配布しています。
三つ目はパントリー。これは食品を個人にお渡しする活動です。店のように、陳列棚にあるものを自分で取っていただくのが基本です。ネットや口コミなどで調べていらっしゃる方や、私たちが提携する団体、例えば自治体や社会福祉協議会の相談窓口や、民間の支援団体などを通じて紹介され利用に繋がるケースもあります。
また、講演会やシンポジウムなどで政策提言をし、私たちの活動に対する理解を広める努力をしています。これがプログラムの四つ目です。例えば、私たちは『食品をください』というストレートなお願いはしません。活動や目指すことを知っていただいたうえで、私たちが必要とする需要の高い食品を提供いただくという、対等で無理のない関係性の中で信頼関係を築きたいからです」
困ったとき食にアクセスできる環境を! 10万人プロジェクト
—— 食品をどのように届けるか。それが大きなプログラムになっていますね。
坂本さん 「困ったときに食にアクセスできる場所をもっとつくりたいと『10万人プロジェクト』を展開しました。フードパントリーを展開する東京で、2016年から20年末までに10万人、神奈川、埼玉を合わせて16万人に支援が行き渡る目標を設定しました。拠点の数にして135です。フードパントリーという言葉自体認知度が低いので、私も各地で説明会を開きました。
フードパントリーの増え方が加速するきっかけとなったのが、皮肉にも、このコロナ禍でした。学校が休みになり給食も子ども食堂もない。子どもはおなかをすかせている――じゃあ、私たちが食品を配ろう、ということで子ども食堂を運営するNPO法人をはじめ、社会福祉法人、社会福祉協議会、そのほか障がい者施設や高齢者施設に関わる方などが担い手になってくださいました。結果、目標を上回る200拠点を達成しました。なかなかうまく浸透しなかったことが、時代の変化とともに受け入れられるようになるのは、この活動の面白いところですね」
支援される側も支援する側になれる
—— 最近取り組んだ新しい試みはありますか?
坂本さん 「食品を受け取る側は支援されるだけの立場になりがちですが、そうではなく支える側にもなれるはずなんですね。都内にある私たちの直営フードパントリー「marugohan(まるごはん)」では、食品を無償で受け取る代わりになんらかの社会貢献をするということを推奨しています。また、一昨年、貧困率が全国平均の2倍、30%弱という沖縄でも食品配布を始めたのですが、そこでは食品を受け取りに来るときに、家にある余った食品を持ってきてもらうというスタイルを導入しました。沖縄にはもともと『ゆいまーる』という互助精神があり、この方法がうまくいっています」
—— 企業や個人が何かできることはありますか?
坂本さん 「食品の提供以外でも協力いただけることはあります。食品を扱わない会社でも、例えば物流やシステム関係、広報ツール制作といった業務を手伝っていただくことができます。また私たちの活動はボランティアの助けがなければ成り立ちません。単発でも継続的にでも参加いただけます。企業・個人どちらでも可能です。こういう関わり方を通して、今たまたま生活に困窮している人と、そうでない人は実はつながっている。人生何が起きるかわからないからです。『お互いさま』ということがわかるきっかけになればと思います」
取材・文 西所正道
2022-09-27