オノデライダーもカヌレ作りもとことんこだわるプロロードレーサー 小野寺玲
僕には愛してやまないお菓子が二つあります。
一つが夏の定番アイス、「スイカバー」。2~3年前からトレーニングのあとに食べながら帰るのがルーティンになっています。
気づいたときには、トレーニング後に、“スイカバーを欲する身体”になっていました。夏っぽい容姿とさっぱりとした味わいはもちろんのこと、適度に入った“チョコ種”がいいんです。
自転車のロードレースのシーズンは3月から11月。真夏はレースの回数こそ少なくなりますが、トレーニングは必須。どんなに激しいトレーニングでも、「スイカバーが待っている!」と思うと頑張れます。シーズン中、脂肪分の多い洋菓子を食べるのは控えめにしているのですが、スイカバーは氷菓子なので脂肪分が少ない。それでいてカロリーの補給ができ、身体のアイシングもできます。夏が終わり、コンビニから姿を消すとさみしい気持ちになる。僕にとっては季節の移り変わりを感じさせてくれるお菓子なのです。
もう一つがカヌレ。出会いは、今から約5年前にさかのぼります。U-23日本代表選手団のメンバーに選出され、フランスに渡る機会があったのですが、そのときに初めて食べて恋に落ちました。
カヌレは当時、日本ではメジャーなお菓子ではなく、僕も未体験でしたが、好きなアニメ『四月は君の嘘』で出てきたことから名前は知っていました。フランスのパン屋で出会い「これがあのカヌレか!」と大興奮。買って食べてみたら、めちゃくちゃ新感覚で、その味わいと食感に感動して興味がわきました。フランスではどこのパン屋でもカヌレが買えるので、いろいろと食べ比べるうちに、店によってまったく味が違うことがわかってきた。カヌレ一つひとつにお店のこだわりが感じられ、その奥深い魅力に完全にハマってしまったのです。
いつかカヌレの店を持つのが夢
帰国後もどうしても食べたくて売っている店を探したのですが、なかなか見つからない。だったら自分でカヌレを作ろう――そう決心したのです。
お菓子作りは初めてのことなので、オーブンを買うところから始め、レシピはネットで検索。材料や工程がシンプルなレシピから始めたのですが、複雑なレシピにも挑戦するようになると、“オリジナルの味”への欲が出てきました。次第に、小麦粉の種類を変えたり、ラム酒を増やしたりといった調整もできるようになり、数年がかりで自分が納得できるカヌレが完成。今のレシピにたどり着くまでに、マイナーチェンジを何十回繰り返したかわかりません。
最近は、日本でもカヌレを買える店が増えてきましたが、僕が作るカヌレは店で見かけるカヌレとはちょっと違います。日本のカヌレは、見た目が限りなく黒に近い焦げ茶色で、表面を分厚い層に仕上げたものが主流ですが、僕が好きなのは、色も層も薄いタイプ。最初のひと口はカリッとしていても、中はトロッ。型から出した瞬間、崩れそうなほど層を薄く仕上げています。そのため、型から出して冷ますと重みで形が崩れ、層にくびれができる場合も。そのくびれができない“ぎりぎりの柔らかさ”と薄い茶色に焼き上げることが僕のカヌレに対するこだわりです。
実は先日、3年ぶりに開催された「2022ジャパンカップサイクルロードレース」のポップアップストアで、地元の洋菓子店とコラボレーションした「カヌレ・ド・オノデラ」を発売させていただきました。僕のレシピをベースに洋菓子店のパティシエに作っていただいたカヌレです。当日はなんと100人以上の行列ができ、初日は20分で完売しました。足を運んでくださった皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。
“小野寺はこだわりが強い”とよく人に言われますが、この性格は昔から。“右にならえ”が大嫌い。何かを選択するときも、‟人と違うもの“を選ぼうとしますし、“人と違うこと”をあえてやろうとするタイプです。
優勝したロードレースのゴールシーンで「オノデライダー」のポーズを取るようになったのも、そんな思いから。最初は、表彰台に上がった際の写真撮影を意識してのポーズでしたが、優勝できる機会が増えてきて、どうせやるならゴールシーンでやろうと思ったのです。
最初は仮面ライダーのポーズをとっていたのですが、「次はどんなポーズを?」といった期待の声に応えるために、好きな映画やアニメからヒントを探すなどして様々なポーズを研究しながら、披露してきました。自転車に乗ったまま、しかもハイスピードのゴールシーンで取れるポーズを考えるのはなかなか大変。イメージができたら、誰もいない山の中で予行練習をしたりして、備えています。
好きなことにはとことんこだわるのが僕の性分。“好きを追求する”のが趣味と言ってもいいくらい。好きすぎてオリジナルレシピまで作ってしまったカヌレをさらに追求していくと、「自分の店を持つこと」が頭に浮かんできました。
実は店名も決まっています。
その名も「ルブル・ド・ラム―ル」。
僕が作るのは、愛情をたっぷり注ぎ込み、自分のこだわりを表現したカヌレなので、「愛の味」を意味するこんな名前を思いつきました。
カヌレは湿気に弱いお菓子。空気が乾燥している今がカヌレ作りには格好の季節です。いつか多くの方に「カヌレ・ド・オノデラ」を食べていただける日を夢見て、今日もカヌレを焼こうと思います。
2022-11-29