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2021年10月29日に韓国で発行された“油菓”の50ウォン切手

朝鮮半島では、かつての高麗時代(918-1392)、仏教が国教とされていたため殺生が禁じられていました。肉食の習慣がありませんでしたが、その代わり、穀類の栽培が盛んになるとともに、中国から伝来した喫茶の習慣が広く普及し、上流階級の間ではさまざまなお菓子が食されるようになりました。

当時のお菓子は、天然の果物に対する人工の甘味という意味で“造果(ジョグヮ)”と呼ばれていましたが、材料の油、穀物、蜂蜜など、当時としては “ぜいたく品”も少なからず含まれていたため、朝廷はたびたび禁止令を出しています。たとえば、12世紀、国王は庶民が揚げ菓子を食べることを禁止しており、その後、揚げ菓子の代わりに果物を食べるようにとの御触れも出されました。

その一方で、13世紀後半にまとめられた歴史書『三国遺事』によると、朝鮮の宮廷では儀式の際にはお菓子が供され、1296年、元の国の王女が王室に嫁いだ際には、結納の宴で高麗王室が油蜜果(ユミルグァ)を贈ったとの記録もあります。

その後、1392年に成立した朝鮮王朝(いわゆる李氏朝鮮)でも、高麗時代の菓子の制限は続けられ、両班と呼ばれた官僚たちも揚げ菓子は宮中の儀式でしか食べてはならないとされ、庶民が揚げ菓子を食べると罰せられることさえありました。

1876年、朝鮮王朝は開国し、さまざまな外来文化が流入するようになると、朝鮮の伝統菓子は西洋のお菓子と区別するため“韓菓(ハングヮ)”と総称されるようになり、現在では庶民にも広く親しまれるお菓子となっています。

儀式だけでなくカフェでも

韓菓は、その製法などにより、“油菓(ユグァ)”“薬菓(ヤックァ)”“正菓(チョングァ)”“茶食(タシッ)”などに分類されますが、2021年10月29日に韓国で発行された50ウォン(1ウォン=0.1円)の普通切手には油菓が取り上げられています。

ちなみに、韓国の現在の郵便料金は、日本の定形郵便にあたる“規格内”が430ウォンで、定型外に相当する“規格外”の最低料金が520ウォンで、重さによって料金が変わる仕組みになっており、この50ウォン切手は、重量便や翌日特急(規格内で3530ウォン)、書留に相当する一般登記(規格内で2530ウォン)などの追加料金で端数が生じた場合の調整用として使用することが想定されています。

油菓は「油で揚げた菓子」という意味ですが、切手に見られるように、細長く両端が丸い形をしており、発酵させたもち米粉の生地を油で揚げてシロップをつけたものに米のコムル(まぶし粉)やゴマなどをまぶしたものが定番のスタイルです。生地を何日もかけて発酵させるなど手間がかかり、家庭で作ろうとすると、10日から2週間ほどかかります。

また、油菓のなかでもサンジャと呼ばれ四角くて大きなものは、小麦粉にゴマ油と蜂蜜を加えた生地を揚げた薬菓とともに、婚礼や先祖供養の儀式に欠かせませんが、一般的な大きさの油菓は、柚子茶(ユジャチャ)などの伝統的な韓国茶のお供として喫茶店やカフェのメニューでも出てきます。

内藤陽介(ないとう・ようすけ)
郵便学者。切手をはじめ郵便資料から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」を提唱し、研究・著作活動を続ける。著書に『日の本切手 美女かるた』(日本郵趣出版)、『みんな大好き陰謀論』(ビジネス社)、『日本人に忘れられたガダルカナル島の近現代史』(扶桑社)など多数。
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