よく噛むことが大切なことは頭でわかっていても、ついつい早食いしてしまう人は多いことでしょう。歯科医師であり料理研究家でもある田沼敦子先生は、「よく噛むためには、食事の噛みごたえ度を上げることが大切」と話されます。今回は、手早くできて、おいしくて、噛む回数が自然に増える「噛むかむクッキング」について、お話をうかがいました。
噛むというのは習慣ですから、よく噛まない人に「よく噛んでください」といってもなかなか実践できません。そこで、噛みごたえのある食事にしたほうが確実に噛む回数を増やすことができる、と思ったのです。噛むことを意識しなくても、毎日おいしく食事しながら噛む回数が増えれば習慣化にもつながります。それで考え出したのが「噛むかむクッキング」です。
食材は、噛みごたえのあるものを選んでください。
たとえば、ニンジンやゴボウ、レンコンなどの根菜、キャベツやレタスなどの葉もの野菜は食物繊維が豊富なので噛みごたえがあります。イカやタコなどの海産物も、弾力があるのでかみ切りにくい食品です。
そのほか、切り干し大根や高野豆腐などの乾物や漬物など、意外なところでは、油揚げやかまぼこなども噛みごたえのある食品です。
なかでも乾物は、保存がきくので常備しておくと便利です。ふだんから目に見えやすく、手に取りやすい場所に置いておくことをお勧めします。
噛むかむロールきつねエネルギー196kcal 塩分2.2g(各1人分)
材料(2人分)
油揚げ…2枚 ザーサイ…20g 水菜…1/4束
カニ風味かまぼこ…4本 スライスチーズ…3枚 塩…少々
作り方
① 油揚げの3辺を切って開き、切り落としは取っておく。ザーサイは軽く塩抜きして細切りにする。水菜は油揚げの幅に合わせて切る。
② まな板に開いた油揚げを広げ、手前に①の油揚げの切り落とし、ザーサイ、水菜、カニ風味かまぼこを半量ずつ並べる。半分に切ったスライスチーズを奥に3枚ずつ置き、手前から少しきつめに巻く。
③ フライパンを温める。②の巻き終わりを下にしてフライパンに置き、しばらく上から押さえてチーズが溶けるまで焼く。
④ 焼き色がついたら転がし、全体がキツネ色になったら塩を振る。
⑤ 粗熱が取れたら、食べやすい大きさに切り分けて皿に盛り付ける。
(出典)『MAKINO MOOK 噛むだけでやせる! 超健康になる!』(マキノ出版)
次に調理のコツですが、切るときには小さく切るよりも大きめに切ったほうが噛みごたえ度がアップします。
もう一つは、加熱時間を短くすることです。生野菜は噛む回数が多い食材ですがそればかり食べてもいられませんから、さっとゆでる、火を通すなどの調理法で、噛みごたえを残す工夫をしてください。加熱時間が長くなればなるほど、基本的に野菜はやわらかくなりますから、できるだけ短い時間での調理が時短にもなって、おすすめです。また、油で揚げたり網焼きにしたりすると、食材の水分が飛んで噛みごたえが出ます。
漬け物を利用するのもよいと思います。食卓にサッと準備できますし、パリパリ、ポリポリとした歯ごたえを楽しみながら噛む回数を増やすことができます。
また、複数の食材を組み合わせると食感に変化が出て、自然に噛む回数が増えます。栄養バランスの点でもお勧めです。
枝豆と豚肉の高菜炒めエネルギー366kcal 塩分2.9g(各1人分)
材料(2人分)
豚ロース薄切り…150g 酒、しょうゆ、片栗粉(豚肉の下味用)…各小さじ1 高菜漬け…100g ネギ…1/2本 ゴマ油……大さじ1 ゆで枝豆(むき身)…100g しょうゆ…適宜 炒りゴマ…小さじ2
作り方
① 豚肉は1cm幅に切り、下味の調味料をもみ込む。
② 高菜漬けはさっと水で洗い、余分な塩気を抜く。1cm幅に切って水気を絞る。ネギは4〜5cmの長さに細切りにする。
③ フライパンにゴマ油を熱し、①の豚肉を広げて炒める。火が通ったら、枝豆と高菜漬け、ネギを加えて炒める。味が薄ければ、しょうゆで味を調える。
④ 器に盛りつけ、炒りゴマをふる。
(出典)『MAKINO MOOK 噛むだけでやせる! 超健康になる!』(マキノ出版)
噛むかむクッキングは、おいしく食べることが大前提です。少しの工夫で噛みごたえがぐんとアップしますから、ぜひチャレンジしてみてください。
噛むかむレシピのポイント
① 噛みごたえのある食材を使う
② 材料を大きく切る
③ 加熱時間を短くする
④ 水分を少なくする
⑤ 複数の食材を組み合わせる
前かがみにうつむいていると、口を大きく開けられません。
背中が丸まっていると、胃が圧迫されて、消化吸収の妨げになります。
さらに、いくら噛んでも、噛んだ力があごにしっかり届かないので唾液も出にくくなり、噛む効果がじゅうぶんに発揮されません。
食事をするときの座る姿勢によって噛む回数が異なる、という研究報告もあります。
最も回数が多かったのが正座で、次いで足を床に着けた状態での椅子座位。最も回数が低かったのが、足を宙に浮かせた状態での椅子座位だったそうです。
子どもの食事の実験で、椅子が高く足がブラブラしている子どもと、踏み台の上に足を置いた子どもとでは、噛む力や噛む面積、噛む回数に15〜20%も差が出たという報告もあります。
つまり、よく噛むためには姿勢だけでなく、足の裏が床に着いていることも大切なのです。
姿勢が悪く、やわらかいものばかり食べていると、あごの筋肉が十分に発達しなくなります。その結果、歯並びも悪くなります。特に子どもには、正しい姿勢で歯ごたえのあるものを積極的に食べる習慣を身につけさせたいものです。噛むことによる健康効果は、周知の通りです。ですが、食事でもっとも大切なのは、楽しく食べることです。心も体も健康に過ごすために、ぜひ今日の食事から噛むかむクッキングでひと工夫して、おいしい食事を楽しんでください。
田沼 敦子(たぬま・あつこ)
高浜デンタルクリニック院長 歯学博士
(2023年7月現在)
神奈川歯科大学卒業後、東京医科歯科大学専科専攻生。勤務医を経て千葉市に「高浜デンタルクリニック」開業。歯学博士。健康咀嚼指導士、日本咀嚼学会会員。「噛むこと・食べること・生きること」を中心に各歯科医師会、教育機関からの依頼で講演活動を行っている。著書に、『元気な子どもの歯を作る』(主婦の友社)、『噛むかむクッキング』(グラフ社)、『welcome to 噛むカムクッキング』(医歯薬出版)、『ホームデンティスト』(ちくま新書)、『取り寄せても食べたいもの』(法研)、『噛むかむクッキング』(クインテッセンス出版)などがある。テレビ、雑誌、講演など多方面で活躍。