むし歯と並ぶ口腔問題の1つである歯周病は、口腔だけにとらわれない健康に関する問題です。株式会社ロッテでは、25年の歳月をかけて歯周病対策素材を研究し続けてきました。
その長年の研究の結果、ユーカリ抽出物とその効果成分「マクロカルパールC」を発見。
ユーカリ抽出物は、ヒト試験によって歯垢の生成を抑制し、歯ぐきの炎症を改善する効果があることが確認されました。株式会社ロッテ中央研究所 噛むこと研究部の大澤謙二より、ユーカリ抽出物及び「マクロカルパールC」発見に至る迄の研究過程とその効果についてご説明いたします。
まず、歯周病対策に着目した理由をお聞かせください
歯周病は、世界中で最も蔓延している感染症です。全世界で考えても、この病気に冒されていない人間は数えるほどしかおらず、ギネスブックで「世界で最も一般に蔓延している感染症」として認定されているほどです。
日本の調査でも、永久歯を失う原因の第1は37.1%を占める歯周病※1です。
また歯周病は、永久歯を失うリスクが高いだけでなく、糖尿病、心筋梗塞、誤嚥性肺炎、動脈硬化などのさまざまな全身疾患にも影響していることがわかっています。
そこでロッテでは、歯周病を口腔だけにとらわれない健康に関する問題として捉え、歯ぐきの健康に役立つ歯周病対策の天然素材を探すことから研究を開始しました。
※1 2018年「8020推進財団 第2回永久歯の抜歯原因調査」による
そこから歯ぐきの健康に役立つ天然素材を探す研究が始まったのですね?
歯周病の原因は、歯垢中で増殖した細菌です。植物には特定の細菌に対して抗菌活性を示すものがあります。私は学生時代に天然物化学を専攻しておりました。その知識を活かし、歯垢の生成を抑え、歯周病原因菌を抑える効果のある天然素材を探したいと考え、抗菌効果を指標にスクリーニングを開始しました。
植物・香辛料、海藻類など、数百種類ものさまざまな天然素材からエキスを抽出して、歯周病菌に効果のある天然素材を探してスクリーニングテストを毎日繰り返し、5年以上の歳月を研究に費やしました。
当初は、「一生懸命探索すれば1年位でよい素材が見つかるだろう」と軽く考えていましたが、そんなに甘くはありませんでした。根気比べのような毎日でしたが、納得できる天然素材が見つかるまでやり続けようと研究を続けました。
そんなある日、いつものように実験をしている中で、すべての菌の増殖を完全に抑えているサンプルがありました。何かの間違いかと思い、何度もテストを繰り返しましたが全く同じ結果でした。その素材は他とは比較にならないほど強い効果を持っていたのです。それがユーカリ抽出物でした。
ユーカリ抽出物はどの様な効果を持っているのでしょうか?
オーストラリア原産で200〜300種あるユーカリの中でも、Eucalyptus globulus(ユーカリ・グロブラス種)の葉の抽出物に、歯周病関連菌や歯垢の生成を抑える効果があることがわかりました。さらに、ユーカリ抽出物を用いて活性を指標に成分研究を行い、その主要活性成分は「マクロカルパールC」と呼ばれるユーカリに特有な物質であることも明らかにすることができました。
ユーカリはコアラの主食としてもよく知られていますが、昔からハーブティーや健康酒としても利用されています。かつては天然添加物でもありました。
さらに代表的な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis(ジンジバリス菌)に対する抗菌効果を調べたところ、抗菌効果のある緑茶抽出物と比べても、高い効果であることがわかりました。また、ユーカリ抽出物はその他の歯周病菌に対しても高い抗菌効果を示しました。
ユーカリ抽出物の特徴は、歯周病菌には高い抗菌活性を発現する一方で、腸内細菌への抗菌効果は低いという点です。腸内細菌叢への影響が少なく、安心して口に入れることができます。
さらに、ユーカリ抽出物はミュータンス菌が産生する歯垢形成酵素の活性を強く阻害することもわかりました。その効果はすでに阻害効果が知られている緑茶抽出物より遥かに高いものでした。
ユーカリ抽出物は、歯周病菌の増殖を抑える効果、さらに菌の生育場所となる歯垢の形成を抑える効果を併せ持つ画期的な素材です。
ユーカリ抽出物は、人への試験も行った結果、歯肉の炎症を抑える効果もわかったそうですね?
大阪大学大学院 歯学研究科との共同研究で、ユーカリ抽出物配合ガムを用いてヒトの歯ぐきの健康に対する有効性評価試験を実施しました。効果成分「マクロカルパールC」を含むユーカリ抽出物配合ガムは、歯肉炎や歯周炎の原因である歯垢の形成を抑制し、歯ぐきの状態を改善することがわかりました※2。
歯肉の状態では、歯ぐきの腫れの改善、歯周ポケットの深さの改善、歯周ポケットからの出血の改善において、対照ガム群との間に有意な効果が確認されました。ユーカリ抽出物の効果は、私の予想をはるかに上回る素晴らしいものでした。
その後も安全性の証明やさまざまな試験を繰り返し、ユーカリ抽出物は、2015年に実用化されるまでに、実に25年という4半世紀の歳月を要しました。
長年あきらめずに、探索と研究を続けてきた結果だと思います。ユーカリ抽出物が配合されたチューインガムやタブレットなどを、多くの人々の健やかな生活に役立てていただきたいと考えております。
今後も、ロッテはしっかりと噛むことができる口腔環境を維持していくため、歯ぐきの健康に取り組んでまいりますので、ご期待ください。
※2 引用文献:J Periodontol 79 (8), 1378-1385 (2008)
【ユーカリ抽出物配合ガムのヒト試験】
実施期間 | 2006年2月~6月(摂取期間12週) |
被験者 | 歯肉に炎症を有する20代〜40代 |
試験群 | ユーカリ抽出物0.4%ガム群 32名 無添加ガム群 33名 |
摂取量 | 1回2粒、1日5回 |
評価項目 | 歯垢の付着(歯垢指数)、歯肉の炎症(歯肉炎指数)、歯周ポケットの深さ、 歯ぐきからの出血 (大阪大学大学院 歯学研究科との共同研究) |
大澤 謙二(おおさわ・けんじ)
株式会社ロッテ 中央研究所 噛むこと研究部 部長補佐
薬学博士
1985年株式会社ロッテ入社。中央研究所において基礎研究に従事し、ロッテの商品開発を素材面からサポート。開発に関わった商品は、キシリトールガム、ACUO、のど飴など多数。「お菓子からお客様に健康を提供する」新商品開発の中で、ユーカリ抽出物を発見。1995年学会に発表。1998年に、口腔内細菌の生育を抑える天然素材に関する研究成果により博士号(薬学)を取得。2014年より中央研究所フェロー(基礎研究部部長)として新商品開発のための基盤研究に従事。2018年「噛むこと」に関する研究、啓発を推進するための専門部署「噛むこと研究部」が創設され、部長に就任(2022年まで)。同年、「噛むこと」の新たな可能性を追求するため、日本の著名な研究者と共に「噛むこと健康研究会」を設立。「噛むこと」を通じて世の中を元気にする取り組みを推し進めている。