4人に1人がドライマウス予備軍!?
口の渇きが気になる、ろれつが回らない、食べるときに飲み物がないとつらい……そんなことはありませんか? もしかしすると、「ドライマウス」という病気かもしれません。ただ口が渇くだけでなく、全身の健康にも影響を及ぼすといわれる「ドライマウス」。それがどんな病気なのか、また原因などについて、「ドライマウス研究会」代表を務める鶴見大学歯学部教授の斎藤一郎先生に、詳しいお話をうかがいました。
「ドライマウス」とは、どんな病気なのですか?「ドライマウス」は、唾液の分泌量が減少することで口が渇く病気のことです。一般的には口の乾燥感が3ヶ月以上続くと「ドライマウス」の疑いがあるといわれています。症状としては口や喉の乾燥感に加え、乾燥に伴う痛みや、口の中のネバネバ感、口臭、食べ物を飲み込みにくくなることなどが挙げられます。欧米の疫学調査によると、人口の約25%が「ドライマウス」の潜在患者といわれており、4人に1人がドライマウス予備軍と推定されます。これを日本で仮定すると約3,000万人にものぼります。
口が渇くことが、病気なのでしょうか?みなさん唾液が1日にどのくらい分泌されているかあまりご存じないと思いますが、分泌量は1~1.5リットルにもなります。その役割は、単に口の中をうるおすだけではありません。唾液には、口内の粘膜を保護する成分や、細菌やウイルスの侵入・増殖を防ぐ抗菌成分、食べ物の消化を助ける酵素など、全身の健康維持に重要な成分がたくさん含まれています。ですから分泌量の減少は、むし歯や歯周病といった口の中だけにとどまらず、食道炎や胃炎を引き起こす原因にもなりかねません。口が渇いた状態が続くのは、健康とは言えないのです。特に高齢の方は、「ドライマウス」が誤嚥性肺炎(食べ物や細菌が誤って気管に入ることが原因で起こる肺炎)につながることもあるので、注意が必要です。
また最近の研究では、唾液の中に記憶に関する成長因子が含まれていることも明らかになっています。身体の健康に加え、脳の機能としての学習といったことにまで関連があるといえるでしょう。
また最近の研究では、唾液の中に記憶に関する成長因子が含まれていることも明らかになっています。身体の健康に加え、脳の機能としての学習といったことにまで関連があるといえるでしょう。
では、なぜ唾液の分泌量は減少してしまうのでしょうか?長年患者さんを診てきた経験から、「ドライマウス」の原因の一つとして多いと感じるのは、薬の副作用です。患者層である中高年は何かしらの病気を患っている方が多く、日常生活から薬が切っても切り離せなくなっているのが一因でしょう。
ほかに原因として疑われるのがストレスです。みなさんも緊張すると口が渇くことがあると思います。人は緊張状態にあると交感神経の働きが過剰になり、唾液の分泌が抑制されます。それと同じことで、ストレス=緊張状態が続くと唾液が出にくく「ドライマウス」になりやすいと考えられます。ストレスを溜めないこと。言うのは簡単ですが、一筋縄ではいかない予防策ですね。
ほかに原因として疑われるのがストレスです。みなさんも緊張すると口が渇くことがあると思います。人は緊張状態にあると交感神経の働きが過剰になり、唾液の分泌が抑制されます。それと同じことで、ストレス=緊張状態が続くと唾液が出にくく「ドライマウス」になりやすいと考えられます。ストレスを溜めないこと。言うのは簡単ですが、一筋縄ではいかない予防策ですね。
もう少し具体的に「ドライマウス」の予防になることはないのでしょうか?唾液には、自然に流れ出る「安静時唾液」と、咀嚼や味覚・嗅覚などの刺激、会話によって分泌される「刺激時唾液」があります。つまり意識的に唾液の分泌を促進するには、食べる、おしゃべりするなど、口を動かすことが重要です。
口を動かすには筋力が必要ですから、口周りの筋力が衰えると、唾液の分泌力も低下します。高齢者の中には「加齢によって口が渇くのは当たり前」と諦めている人もいるようですが、間違った思い込みです。人体には、使っていない筋肉や機能が衰えていく「廃用性萎縮」という性質があります。使わなければ衰えは加速する一方です。でもよく噛み、口をよく動かして筋肉を鍛えれば、唾液の分泌力の維持は可能なのです。
口を動かすには筋力が必要ですから、口周りの筋力が衰えると、唾液の分泌力も低下します。高齢者の中には「加齢によって口が渇くのは当たり前」と諦めている人もいるようですが、間違った思い込みです。人体には、使っていない筋肉や機能が衰えていく「廃用性萎縮」という性質があります。使わなければ衰えは加速する一方です。でもよく噛み、口をよく動かして筋肉を鍛えれば、唾液の分泌力の維持は可能なのです。
ここまでお話を聞いていると、高齢の方の病気に感じられるのですが…?「ドライマウス」は高齢者に限った話ではありません。
日本人が1回の食事で噛む回数は、戦前が約1,400回だったのに対し、現在は約600回に減っているといわれています。1日の咀嚼時間は30分を割り、1食につき10分足らずしか噛んでいない計算になります。
現代は柔らかく食べやすい、おいしいものがあふれています。また核家族化さらには各人が忙しく家族が食卓を囲む機会が少なくなり、それぞれが食事をとる孤食が進んでいることなど、生活環境・習慣の変化が咀嚼時間に関係していると考えています。こうした状況からも若い世代がドライマウス予備軍となりうるのです。
日本人が1回の食事で噛む回数は、戦前が約1,400回だったのに対し、現在は約600回に減っているといわれています。1日の咀嚼時間は30分を割り、1食につき10分足らずしか噛んでいない計算になります。
現代は柔らかく食べやすい、おいしいものがあふれています。また核家族化さらには各人が忙しく家族が食卓を囲む機会が少なくなり、それぞれが食事をとる孤食が進んでいることなど、生活環境・習慣の変化が咀嚼時間に関係していると考えています。こうした状況からも若い世代がドライマウス予備軍となりうるのです。
斎藤 一郎(さいとう・いちろう)
株式会社クレインサイエンス 代表
ドライマウス研究会代表
(2023年7月現在)
1954年東京生まれ。松本歯科大学を卒業後、日本大学歯学部、米国スクリプス研究所などで口腔乾燥症を呈するシェーグレン症候群の研究に従事。東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授、徳島大学歯学部助教授を経て、2002年より鶴見大学歯学部教授。2002年に「ドライマウス研究会」を設立し、2003年より鶴見大学歯学部附属病院にドライマウス外来を開設するなど、ドライマウスの診断と治療の普及に取り組む。日本抗加齢医学会副理事長を歴任し、抗加齢歯科医学研究会代表も務める。