コロナ禍での新しい生活用様式により、日常で誰もがマスクをするようになりました。
そんな中、マスクをすることによって無意識に「口呼吸(くちこきゅう。医学的には、こうこきゅう)」をしていると感じている人も、増えているのではないでしょうか。
最近では、口呼吸はうつ病、糖尿病など、さまざまな健康問題につながるといわれています。今回は、内科医でありながら口呼吸の予防に積極的に取り組まれている今井一彰先生に、マスクと口呼吸の関係、口腔機能の重要さ、さらに効果的な口呼吸の改善法について、お話を伺いました。
一方、口から吸った息は、そのまま気道に流れるので、抵抗が極端に少なくなります。
マスクをすることは、フィルターが増える、ということですので、抵抗が増え息苦しさを感じやすくなります。
ですから、つい楽な口呼吸になってしまう、というのも仕方のないことなのかもしれません。
もともと人類は、いつでも食べたり水分を摂ったりできなかった時代が長かったので、体の熱や水分を奪われにくい鼻呼吸はエネルギーを節約するのにとても重要でした。逆に、口呼吸は熱と水分を逃がすので、夏のマスク装着はより口呼吸になりやすい、ともいえます。
また、口腔機能が低下することで起こる弊害はなんですか?口呼吸は、いつも口を開けているということなので、まずドライマウスになりやすくなります。さらに、舌の筋力が衰えるので舌を動かしづらくなり、舌苔(ぜったい。舌に付着する白いコケ状のもの)がつきやすくなるのです。歯周病を引き起こす歯垢(しこう)も、口呼吸だとつきやすくなりますね。舌苔や歯垢は、口腔内の雑菌の温床ですし、口臭の原因となります。
そのほかにも、うつ病、気管支ぜんそく、糖尿病など「口呼吸は万病のもと」といっていいほど、心身の至るところに影響を及ぼすといわれています。
たとえば、口呼吸をすることで、片噛み(いつも同じ側で噛むこと)の傾向が強くなります。
本来、鼻は呼吸するところで、口は食べるところ。しかし、口呼吸の人は、呼吸と食べることを同時に行わなければなりません。ですから、口の中の食べものを片方に寄せて咀嚼して、もう一方の側を空けて呼吸するのです。片噛みが続くと顔がゆがんだり、鼻中隔が変形して鼻すじが曲がったりすることもあります。
「8割の人で、舌が上あごについていなかった」という調査結果もあるくらいですから、ぜひ一度チェックしてみてください。
このほかにも、のどの乾燥、いびき、口臭、かぜをひきやすいといったことも、舌の衰えが原因の場合がありますから、口呼吸を疑ったほうがいいでしょう。
そういう人には、なんでもいいので、噛む習慣をつけて欲しいと思っています。その中でも、ガムは手軽に長い時間噛めるので、おすすめです。
また、高齢者の患者さんの中には、噛むこと自体できない、それさえもたいへんという人もいらっしゃいます。
そのような衰えがある人には、舌の体操をすすめています。口を閉じて舌をグルグルと回すだけなので、マスクをつけていてもできます。
多くの患者さんを診ていえるのは、この10〜15年で、咀嚼・口腔機能は確実に悪化しているということ。高齢者ばかりでなく、若者や子どもたちにもいえることです。もはやオーラルフレイルは、高齢者だけの問題ではなくなってきました。
マスクをつける生活様式は、自分が口呼吸かどうか?を意識する機会でもあります。慢性的な口呼吸にならないように、ふだんからよく噛んで食べて舌の体操を行い、舌の筋肉の衰えを防ぎましょう。
今井 一彰(いまい・かずあき)先生
メディカルエンターテイナー
みらいクリニック 院長
内科医・東洋医学会漢方専門医・NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長
(2023年7月現在)
1995年、山口大学医学部卒業。2006年、福岡市に「みらいクリニック」を開業。体の使い方を変えて体を治す、薬を減らすといった独自の視点から、ユニークな医療・講演活動を続けている。『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』(マキノ出版)、『ぜんそくを自力で治す最強事典』(マキノ出版)、『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)ほか、著書多数。口呼吸を鼻呼吸に改善する口の体操「あいうべ」の考案者。