めざせ8020 第28回
放置していない? 口の中の異変
唾液の減少から口腔カンジダ症へ
高齢になると唾液の分泌量が減ることから、「口が渇く」と訴える人が増えます。健康な人であれば、唾液は1日に1~1・5リットルほど出ます。しかし、加齢とともに唾液をつくる唾液腺が萎縮したり、噛む力が弱くなるため、唾液の分泌量は減ってしまいます。これが口腔乾燥症(ドライマウス)の原因になります。
薬の副作用で口腔乾燥症になってしまうこともあります。高齢者の場合、降圧剤に利尿剤、さらに精神安定剤を一緒に服用するケースも珍しくありません。薬の数が増えれば、それだけ口腔乾燥症を引き起こす確率は高くなります。
ところで、唾液の分泌が減ってしまうと、歯の表面についた食べ物のかすなどを洗い流す自浄作用が落ちてしまい、舌に舌苔や汚れがたまったりします。すると、カビの一種であるカンジダ菌が増殖し、口腔カンジダ症を引き起こすことがあります。カンジダ菌は誰の口の中にもすみついている常在菌の一つですから、健康であれば発症することはありません。しかし、口腔乾燥症のほかに、入れ歯が不衛生であったり、免疫力が低下したりすると異常に増殖し、他の常在菌とのバランスを崩して口腔カンジダ症を発症させます。
口腔カンジダ症は、最初は白い苔のようなものが舌に見られる程度ですが、進行すると入れ歯の下や口の中全体が赤くただれたようになり、味覚障害が起きて味を感じにくくなることがあります。こうなると、塩や砂糖を増やしがちになり、これが高血圧や糖尿病につながることがあります。
口腔カンジダ症を予防するには、普段の歯磨きはもちろん、舌ブラシによる舌苔などの除去、歯科医師や歯科衛生士による専門的な歯を含めた口腔全体のクリーニングが大切です。また、入れ歯は入れ歯用のブラシで洗うとともに、カンジダ菌に有効な入れ歯洗浄剤で洗浄する必要があります。
高齢化に伴い増えている口腔がん
近年、高齢化によって口腔がんが増加傾向にあります。口の中にできるがんをまとめて口腔がんといいます。よく耳にするのは舌がんですが、歯肉や頬の粘膜、骨にもがんはできる可能性があります。しかし、口腔がんを公的ながん検診制度に取り入れている地域は極めて少なく、日々口のなかを隅々までチェックはできないため、見つかりにくいのが現状です。
実際、多くの人は口の中の異変には無頓着です。たとえ口内炎ができたとしても、「そのうちに治るだろう」と放置しておく人がほとんどではないでしょうか。しかし、胃や肺などの内臓と違って口の中は目で確認できるのですから、4~5か月に一度は歯のクリーニングといっしょに口の中についてもかかりつけの歯科医師にチェックしてもらいたいものです。また、左の表のような症状に気がついたら、早めに歯科医師を受診してください。病変を早く発見して適切な検査を受けることが、口の中の粘膜の病気の予後に大きく影響します。歯科医師との連携で、心身の健康を維持していただきたいと思います。
片倉朗
東京歯科大学水道橋病院院長、口腔病態外科学講座教授。専門は口腔がんの早期診断とその外科治療。『よくわかる口腔がん治療』(インターアクション)ほか著書多数。
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NHK出版 NHKテキスト「きょうの健康」2020年8月号掲載