悪魔VS天使シリーズ満30周年企画
グリーンハウス・米澤稔氏&兵藤聡司氏インタビュー!【第1回】
悪魔vs天使シリーズのイラストを長年描き続けてきたグリーンハウス・米澤稔氏と兵藤聡司氏。今改めてビックリマンの30年を語る。(全2回更新予定)
【プロフィール】
米澤 稔(よねざわ みのる)
1954年兵庫県姫路市生まれ。ビックリマン悪魔vs天使シリーズのキャラクター制作に携わる。
現グリーンハウス取締役兼アートディレクター。
兵藤 聡司(ひょうどう さとし)
1963年兵庫県尼崎市生まれ。米澤氏と一緒にビックリマン悪魔vs天使シリーズのキャラクター制作に携わる。
【インタビュー連載第1回】
キャラクター誕生もラクじゃない!
30年前から現在まで悪魔vs天使作画秘話公開!
――早いもので今年(2014年)悪魔vs天使シリーズは30周年を迎えます。お二人は1985年に始まった第1弾からずっと作画で関わられていますね。シリーズ開始当初、シールデザインで苦労した点はありますか?
- 米澤
- 「最初は全てに不慣れで悪戦苦闘してましたね。シンプルな線、ベタ塗りのカラー、いろんな要素をキャラクターに集約する難しさがありました。『子供向けで色はベタ塗りで』と最初から決まっていましたが、インパクトある優れたキャラクターを作ろうとするあまり、こだわりすぎて大変だったと記憶しています」
- 兵藤
- 「僕はもっと悪戦苦闘しました。グリーンハウスに入社してすぐビックリマンの仕事でしたから。最初は米澤さんに教えてもらいながら、少しずつ慣れていった感じですね。透けて見えるトレーシングペーパーに絵を描いて、移動させながら違いを教えてもらったりしていました。師匠と弟子みたいな関係ですので」
- 米澤
- 「二人とも不慣れであったことは確かです。最初はノリと勢いで制作していたところもありました。ただ僕らの理想とするデザインに近づけようと日々努力しましたね。ただ描きまくるしかないんですよ。線画ラフの特訓です。そこで一本の線でも太さや滑らかさで、表情も性格も変わってしまうことに気づいたんです。線の大切さを学んだと同時に、ビックリマンの基礎も築けたのかなぁとも思います」
- 兵藤
- 「30年前はアニメのセル画と同じ要領で描いていたんです。色塗りで失敗したらやり直し。もう一度最初からやり直し。緊張感を持ち続けて作業していました」
- 米澤
- 「アニメカラーで色を重ね塗りして。全く昔のアニメ作画と同じです。今はどっちもコンピュータに取って代わられましたけどね」
――若いビックリマンファンはセル画とかアニメカラーとか知らない人も多いでしょうね。30年で変わった大きな出来事かもしれません。
- 兵藤
- 「実はビックリマンにはベースとなる調合した肌色があって、大量に作り置きして使っていました」
- 米澤
- 「アニメカラーが足りなくなって、元々は赤だったけど青に代えた、なんて話は山ほどあります(笑)」
――全て手作業だった作画に、コンピュータ導入は大きな転換期だったのではないでしょうか?
- 米澤
- 「それが意外とかかる手間や時間は同じなんですよ。今でも元の線画は手描きですし」
- 兵藤
- 「着彩でも様々なパターンを試すので、時間はかけてやってます」
- 米澤
- 「今も昔も変わらないのは『こだわり』にかける時間です。線も色も、キャラクターのアイデアも、自分たちが納得いくまでこだわり尽くす。その時間が一番大切だし、必要だと思っています」
――今日は現場取材ということでいくつか作画の秘密を教えていただきたいのですが。
- 米澤
- 「キャラクターの線画は、基本鉛筆で下描きしたものをサインペンで清書します。多くのサインペンを試しては使って、を繰り返しているのですけど、まだ自分自身が納得いくペンには出会ってません」
- 兵藤
- 「曲線は基本フリーハンドで描きますが、たまに雲形定規を使用しています。手描きで難しいのが円や楕円です。そこで円定規や楕円定規を駆使してベースを描き、それを元にして手描きで線を太らせるテクニックも使っています」
――お二人で行う作画工程は今も昔も変わらないのですか?
- 米澤
- 「本当に共同作業ですね。お互いにイメージを出し合って、ラフを描いてイメージが固まったものから着手する感じですね」
- 兵藤
- 「だから二人がかりでもイメージが湧かないものは後回しになるんです。他の作画は色塗りも終わってるのに、線画すら手をつけられないこともありましたね……」
――アイデアが出てこない時はどうするんですか?
- 兵藤
- 「米澤さんは一人でこもってましたね。ヘッドホンして、瞑想して自分の世界に入り込んで……ましたよね?」
- 米澤
- 「そうそう」
- 兵藤
- 「米澤さん宛の電話がかかってきて、取り次ぐと怒るんですよ。『オレのところに電話を回すな!』って。会社じゅうで瞑想している米澤さんを恐れていたんです」
- 米澤
- 「ふと浮かんでくるんじゃないか、天からアイデアが降りてくるんじゃないか、と思って瞑想を続けてましたね。まあ、そんなこともあったかな(笑)。でも、それだけ真剣に考えていたんですよ、皆さんをビックリさせるために」
悪魔vs天使ブームが巻き起こった栄光の1980年代!
ビックリマンシールに及ぼした時代の影響とは?!
――悪魔vs天使シリーズが始まったのが1985年、昭和60年にあたります。お二人にとって80年代が与えたビックリマンへの影響というのはありますか?
- 米澤
- 「ご存じの方も多いと思いますが、某野球球団ですよね。スーパーゼウスを描く際、『ビックリマン最高の神を描いてほしい』というリクエストがあって、当時僕にとって神様的存在だった三冠王をモデルにしましたから。偶然にもビックリマンが始まった年と優勝が重なりましたし」
- 兵藤
- 「当時の米澤さんは熱狂的でしたね。応援しているチームが負けるとゴミ箱蹴飛ばしたり(笑)」
――タイガー王神なんてのも初期に出てきましたね。手抜き球魔は憎しみがこもっていて秀逸です。テレビ番組はどんなものをご覧になってましたか?
- 米澤
- 「バラエティ番組も見てましたね。当時の大河ドラマのセリフを社内で言い合ったりして遊んでたなぁ。ロックも好きで、テンション上がるのもイメージ広げるのもミュージックビデオでした。仕事中はFMラジオの番組を聴いてましたよ」
――以前、米澤さんにはジャズやロックに造詣が深いことをお聞きしました。
- 米澤
- 「特に70~80年代の洋楽ロックミュージックが私の制作エネルギー源ですね。その時の数え切れないアルバムが、ビックリマンキャラクター発想時や制作時に活躍しました。今でも音楽が制作時のエネルギー源に変わりはないです」
――悪魔vs天使シリーズと時を同じくして様々なゲームソフトもブームになりましたよね。
- 兵藤
- 「王道ものは一通り遊びました。」
- 米澤
- 「ゲームソフトに関しては圧倒的に兵藤君の方が詳しい」
- 兵藤
- 「詳しいんじゃないです。たくさん持ってただけです」
――ゲームソフトのコレクターということですか?
- 兵藤
- 「集めていたわけでもないんです。若気の至りというか、会社に入ってお給料もらって、ボーナスとかもらっても、使い方が当時よくわかってなかったんですよ。だからブームということもあって、新しいソフトを結構買ってたんです(笑)」
- 米澤
- 「それも発売日にね(笑)」
――でも、ビックリマンの作業で忙しいはずじゃ?!
- 兵藤
- 「ええ。だからほとんどのソフトは遊べていません。箱から出してないものも多かったですね。『面白そうだな』と思ったものはジャンルにこだわらず、とにかくいろんなカセットを買いあさりましたねぇ」
- 米澤
- 「大丈夫、兵藤君が遊べない分、会社のみんなで楽しんでいたから」
――兵藤さん、なかなかのクレイジーっぷりですね!
- 兵藤
- 「その分、ビックリマンに僕の青春を捧げましたから!(笑)」
- 米澤
- 「意外に笑い事じゃなくて、世の中が浮かれている80年代に、僕らは悪魔vs天使に張り付いて作業してたんですよ」
- 兵藤
- 「当時のゲームはグラフィックがドット絵だったので、キャラは単純で勝手に頭の中でイメージを膨らませる余地がありました。いろんなジャンルの世界観に触れられて、いい刺激を受けました」
- 米澤
- 「音楽に映像、当時の世相も全て取り入れたのがビックリマンに表れていますよね。キャラクター作りは柔軟で、制作は頑なというか」
- 兵藤
- 「ストイックにやってましたよね、当時は」
- 米澤
- 「キャラクターに関しては我々の子供の頃からしみついた関西ギャグとかサービス精神が反映されてると思うんです。いかに人を楽しませるか、喜んでもらうか。一発ギャグじゃないですけど、シールの中に全てを集約させ、爆発的インパクトを与える。その発注が一度に何十枚もある。僕らが浮かれているわけにいかないですよ」
- 兵藤
- 「よく『ビックリマンがブームになってどうでした?』って聞かれますけど、ほとんど売り場も見たことないし、子供たちが遊んでいる姿も見たことないんです」
- 米澤
- 「とにかく作業に追われていました。その繰り返しです。僕らの80年代は前半のちょっとだけで、中盤以降はビックリマンと共に歩んだ感じです」
――その通りにビックリマンは黄金期を迎えたわけですね!
- 米澤
- 「話は大きく変わっちゃうけど、今回のビックリマン・オールスター企画は皆さんからの人気投票でシールが決まるわけですよね」
――悪魔・お守り・天使と各リーグの選抜キャラクターがシール化されることが決まっています。
- 米澤
- 「ひとつ提案があるんですけど、僕らの思い入れあるキャラクターを『グリーンハウス推薦チーム』として新たに加えてもらえないですかね? 前と同じデザインじゃなく、僕らが新しくポーズを描きおろして……」
――えええっ! ここへきて衝撃的発言が飛び出しましたね!
つづく
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